木原文庫所蔵の鏑木清方作品


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現在、鎌倉の鏑木清方記念美術館では「清方、美人画の巨匠へ」という展覧会が開催中ですが、いつもは他の美術館によく置いてあるパンフレットが「今回は無いなぁ」、と思っていたら、ようやっと大倉集古館で見つけました。

やはり、紙のパンフの画像や文字を見て初めて気づくということがあるもので、裏面を見たら、木原文庫所蔵の清方作品がいくつも出展されているとのこと(HPにも掲載されていたものの、その後で気づく)。

これはヤバイ、観たことが無い! 行かなければ! でも、5/22まで。さて、何時、鎌倉まで行けるかが問題です。 ^^;

清方、美人画の巨匠へ
at 鏑木清方記念美術館
2013. 4.19 – 5.22

鏑木清方 作品一覧ページ

暮らしと美術と髙島屋 展


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「たかしまや ART WALKING」の一つが世田谷美術館で開催されている「暮らしと美術と髙島屋 展」。

世田谷美術館の企画趣旨は、企業と美術の関連に焦点を当てたものだそうですが、しかし、その社会学的なアプローチの考察は、おいおい、他のデパートの活動や都市学などと共に、そういう興味が沸く時を待つことにして、^^; 個人的には、髙島屋史料館のコレクションを知ることが今回の一番です。

出展作品の中でのイチ押しは、コレ。

横浜髙島屋と日本橋髙島屋と、それぞれに開催の「美の競演 京都画壇と神坂雪佳」展では、細見美術館と京都市美術館の神坂雪佳作品が数多く出展されていますが、この展覧会でも1点出ていました。

飯田家四代目飯田新七還暦祝画帖」という、竹内栖鳳や菊池契月らを含め当時の著名な日本画画家による作品の祝賀画帳があり、これに、神坂雪佳の『 松葉掻 』 1918 (T07)頃 という作品が含まれています。これも、「ゆるい」、良い作品です。

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前・後期で作品入れ替えがあるのですが、日本画は結構な割合入れ替えされるそうで、その雪佳の作品も前期のみ(4/20- 5/19)展示です。

さて、先日、ニューオータニ美術館で開催中の 「ジャパンビューティ 描かれた日本美人」展の感想 で九條武子夫人のこと、彼女がモデルをしていたことを書きましたが、髙島屋でモデルになっているポスター作品が出ていました。

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写真や松園作品のモデルでの表情とも、また異なりますが、意外なところで連続してつながっていましたね。

あと、世田谷美術館だけでなく、玉川髙島屋で開催の「日本美術の輝き」展(4/24 – 5/12)でも髙島屋史料館の所蔵作品が出展されていますので、併せて鑑賞されると良いと思います(無料)。

at 世田谷美術館
前期:4/20- 5/19 | 後期: 5/21- 6/23
図録 ¥ 2,400

ラファエロ展の感想


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「2度と日本では会えない」というのは、大型企画展でよく使われる常套文句ですが、その実、数年前に個別作品が来日していたり、また、数年後にまた来たりするということがあります。しかし、このラファエロ展が日本で実現することは、今後、数十年単位で、まず無いでしょう。

そういう貴重なラファエロ展の感想です。
といっても、毎日新聞に高階秀爾氏が展評を載せられています ので、こちらをご参照ください。それ以外のこと、恐れ多くて何も書けません。^^;;

一つだけ感想はといいいますと、当時、ラファエロが作成していた作品は宮廷の装飾などが主であったため、一般の人には鑑賞できませんでした。そのため、工房で多くの職人を使って各作品を版画にし一般市民も鑑賞できるようにしていたそうです。16世紀初頭、既に、そういう美術出版の走りがあったのですね。その版画も、今回、展示されています。

上記写真は、国立西洋美術館の外観です。写真を撮る時、とてもたくさんの人が館前を歩いていたのですが、撮ってみたら誰も写っていないのでした。マリア様が、人払いされたのかもしれません。まさか、そんなことは。。と思うのですが、不思議です。

ラファエロ展
at 国立西洋美術館
2013. 3. 2 – 6. 2
図録:¥ 2,800

その他、展覧会情報一覧ページ

「美の競演 京都画壇と神坂雪佳」展、行ってきました


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東京日本橋で始まるまで待てないので、開始早々に、横浜髙島屋へ。

全体の構成は全72点中31点が神坂雪佳作品。その意味では、展覧会名は「京都画壇と神坂雪佳」というよりは、「神坂雪佳と京都画壇」の方が適していたのでは無いかと思います。

去年、そごう美術館で開催された細見美術館展以上に、神坂雪佳の作品が細見美術館から、また、京都市美術展等からも出ていました。^^

十二ヶ月草花図 』 細見美術館  が全点展示
百々世草 』 細見美術館  は3面のみ(もっと観たかったな)

杜若図屏風 』 個人蔵
尾形光琳の『 燕子花図 』(現在、根津美術館で展示中)を踏襲するもの。光琳のが、分厚い座布団に座って高価な着物を着て大名気分で描いた作品なら、雪佳のは、ゆかた姿で、ひょいと描いたかのような、ともかく肩の力を抜いた作品といえるかと思います。

軽舟図 』 1915 (T04)頃  京都市美術館
さらっと描かれた船頭さんの絵。ゆるくて良いです。^^

横浜展と東京展、まったく同じ出展かと思ってたのですが、次の2点だけは東京展のみとのこと。
『 絵になる最初 』 竹内栖鳳
『 ピアノ 』 中村大三郎

美の競演 京都画壇と神坂雪佳
at 横浜髙島屋ギャラリー8F
2013. 4.24 – 5. 6

at 日本橋髙島屋8Fホール
2013. 5.29 – 6.10

図録: 1,800円

 

桂ゆき展の感想


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本名:桂雪子。「ユキ子」を経て「ゆき」になったようです。

10年近く前になるかと思いますが、福岡市美術館で『 積んだり 』1951 (S26) という作品を観て、面白い構成の作品を作る方がおられたんだな、と直感的に思いました。その数年後に北九州市立美術館で『 こわしたり 』 1951 (S26) に会うに、これらはセットだったのかと、その発想に奇抜さに興味がさらに沸いたのでした。

しかし、展覧会に取り上げられることはほとんど無く、東京国立近代美術館で『 ゴンベとカラス 』1966 (S41) が出ることは、何回とあった所蔵品展でも1度あったか、どうかな? という記憶です。

さて、そういう長い期待を経て、静かな待望の大回顧展です。
桂ゆきが、それぞれ経緯を追って、どういう作品を追求していったかが解ります。

今回の展示会は、以下の5部構成になっていました。

I.  3つの表現方法の模索 : ~ 1930年代
ミロやエルンスト的な模索が行われる中で、その後の各作品のベースとなる、細密画・コラージュ・戯画的表現の追求と実験が行われています。

II.  社会との距離 : 1940年代 ~ 1955
社会事件のテーマも扱いつつ、固定観念による見方の固定がされないようにするという試みです。先の『 積んだり 』『 こわしたり 』のように、各バラバラの場面を組み合わせて1枚の中で表現して全体を構成するシリーズも、この時期の作品です。

III.  長い旅 : 1956 ~ 1961
パリ - 中央アフリカの僻地 - ニューヨーク と、世界各地で生活し、現地のアーティストたちと交流しながら、抽象表現主義的な作品に取り組んでいますが、こういったシリーズの時代があったこと、今回初めて知りました。
また、その、アフリカ訪問は帰国後に体験記として「女ひとり原始部落に入る」という書籍になり、毎日出版文化賞を受賞してます。しかし、その時代、そんな奥地へ出かけていったというのは、兼高かおるさんも、びっくりだったでしょうね。

IV.  動物寓話 : 1960年代中 ~ 1970年代
大型のコラージュのシリーズ。目が、それぞれに表情を持ち、戯画的に全体が表現されています。しかし、その中には、コラージュのように見えて、実は、そのように見せたペインティングである作品も多いのです。

V.  人とモノと生き物がおりなす物語 : 1970年代後 ~ 1980年代
コルクを切って立体的に貼り付けて作成したコラージュ作品が展示されています。

そして最後に、着物の裏地に用いる紅絹に綿を詰め込んで縫って作った、お手玉のような、座布団のような、はたまた芋のような色んな形のものをいくつも組み合わせて作られた作品の展示室で終わります。「これ、草間彌生かイ・ブルの作品の部屋ですか?」と思いました。

今後、さまざまな展示会の各テーマによって取り上げられることを期待しますが、全体を通して把握できる回顧展として、今回の展覧会を押さえておかれること、お勧めです。^^

桂ゆき - ある寓話

at 東京都現代美術館
2013(H25). 4. 6 – 6. 9
図録: ¥ 2,500

その後、下関市立美術館へ巡回
2013(H25). 6.21 – 8. 4

桂ゆき 作品ページ

「藤田嗣治 本のしごと」展


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日比谷公園内にある千代田区立日比谷図書文化館にて藤田嗣治の展覧会が開催されています。

藤田の本の装幀作品は、2年前に、ポーラ美術館で開催された
レオナール・フジタ 私のパリ、私のアトリエ 展」( 2011. 3.19 – 2012. 1.15 )
にて、
『 猫の本 』 1930
『 海龍 』(ジャン・コクトー著) 1955

を観て、こんな、すばらしい作品も残していたのかと初めて知りました(→ その時の感想はこちら)。

続いて、昨年の松濤美術館での
藤田嗣治と愛書都市パリ -花ひらく挿絵本の世界-」( 2012. 7.31 – 2012. 9. 9 )
では、君代夫人から東京国立近代美術館へ寄贈された藤田の所蔵本が一気に公開され、フランスで発行された数々の書籍の作品に触れることができました。

『 イメージとのたたかい 』等、これまた素晴らしく、いたく感じ入ったのでした。

さて、数年したら東京国立近代美術館自身が、その展覧会を開催されるのだろうと思いつつ期待おりましたら、今回、上記の展覧会が図書館という場所で開催です。

副題の通り、日本での装幀を中心にしたものであり、国内で発行された書籍・雑誌の表紙絵や挿絵を数多く鑑賞できます。装幀ブームのパリでの活動だけかと思っていましたら、日本でもたくさん出ていたのですね。

また、東京富士美術館では、当館が所蔵する書籍による
レオナール・フジタの挿絵本 展」( 2013. 4. 3 – 2013. 6.30 )
も開催されており、こちらでも鑑賞することができます。

 

藤田嗣治 本のしごと ~ 日本での装幀を中心に
2013. 4. 4 – 6. 3
at 千代田区立日比谷図書文化館
公式サイト
図録なし。ただし、会場入り口で小冊子を渡される

 

たかしまや ART WALKING


今年は髙島屋美術部100周年だそうで、それに合わせてだろうと思いますが、「 たかしまや ART WALKING 」 というイベントが開催されます。

1. 4/20 – 6/23 : 「暮らしと美術と髙島屋」展   世田谷美術館
2. 4/24 – 5/ 6 : 美の競演 京都画壇と神坂雪佳  横浜髙島屋
3. 4/24 – 5/12 : 日本美術の輝き         玉川髙島屋
4. 4/25 – 5/ 6 : 龍村平藏「時」を織る      日本橋髙島屋
5. 5/24 – 6/ 4 : 龍村平藏「時」を織る      横浜髙島屋
6. 5/29 – 6/10 : 美の競演 京都画壇と神坂雪佳  日本橋髙島屋

という構成で、1 と 3 では、髙島屋史料館所蔵で、あまり出展されない作品が出てくること期待です。合わせて、総合の図録も発行してもらえないかなと思うところです。

また、2 と 6 は、京都市美術館と細見美術館の所蔵作品の競演で、関東には、まず、全然無くて、海外でも評価の高い神坂雪佳作品が出るとあって、楽しみです。

さて、この4種の展覧会をめぐる 2,000円のお得な特別鑑賞券が、4/19(金)まで 3,000枚限定で発売中です。今日、日本橋本店7Fの友の会カウンターへ「もう無理かな~」と思いつつ買いに行ったのですが、まだ余裕ありとの話でした。

→ こちらが たかしまや ART WALKING のホームページ

 

ファインバーグ・コレクション展(予告)


edotokyo201305江戸絵画(狩野派や土佐派は除く)の「ファインバーグ・コレクション」の存在は以前から少し知ってましたが、今回、まとまった形での展覧会が江戸東京博物館で開催されます。

ロバート・ファインバーグ氏はアメリカの化学者&実業家であり、一代で江戸絵画のコレクションを蒐集した人です。海外のサイトを見ると、”Betsy and Robert Feinberg Collection” となっていますので、奥さんと一緒に蒐集されたのでしょう。欧米ではコレクション名に夫婦名を付けることが多いです。

今回の展覧会の構成は次の通り。
・第1章: 琳派 - 俵屋宗達、尾形光琳、酒井抱一、鈴木其一 等
・第2章: 文人画 - 池大雅、与謝蕪村、谷文晁 等
・第3章: 円山四条派 - 円山応挙、森狙仙 等
・第4章: 奇想派 - 伊藤若冲、曾我蕭白 等
・第5章: 浮世絵 - 菱川師宣、葛飾北斎 等

ちょうど、東北では、仙台市博物館等でプライス・コレクションの「若冲が来てくれました」展が開催されていますが、プライス氏もファインバーグ氏も、共にアメリカの現代コレクターで、江戸絵画中心の蒐集ということでも共通しているでしょう。

このあたりの現代アメリカ日本画コレクターについては、10年前にクラーク財団日本美術コレクションが日本に来た時に、千葉市美術館のパンフに解説記事があり、幸い PDFがアップしてありますので、リンクしておきます。

千葉市美術館ニュース「C’n」25号 2003(平成15)年1月15日発行

at 江戸東京博物館
前期: 5.21- 6.16 / 後期: 6.18- 7.15

 

第68回 春の院展(東京展)


混んでました。訪問の時間帯や会場の広さの違いによるものもあるでしょうが、フランシス・ベーコン展の3倍くらい多かったように感じました。まぁ、鑑賞者の年代の違いも大きいのですが、ココが、よく起きるネットとネット外との認知や盛上がりの違いのギャップでもあります。

さて、いつもの通り「足が止まった作品」のピックアップです。どうした訳か、今回は「しばらく足が止まった作品」というのがありませんでした。前回、秋の再興院展で気になっていた作者で出品が無かったのが多かったことも残念です。

それと、若い人の作品では、アニメと近い感じの作品が増えたように感じました。

○ すこし足が止まった作品 (敬称略)

『 木之花佐久夜毘売 』  高橋 天山
『 ねがい星 』  宮北 千織
『 夢記 』  井手 康人
『 カモフラージュ 』  水野淳子
『 アタラクシアの窓 』  大久保 智睦
『 春の水巴 』  北田 克己
『 捨身飼鯉図 』  中尾泰斗

at 三越日本橋本店
東京展: 2013. 3.27 – 4. 8

・名古屋松坂屋美術館:4.13 – 4.21
・秋田アトリオン:  4.24 – 5. 6
・仙台三越:     5.14 – 5.19
・JR大阪三越伊勢丹: 5.22 – 5.27
・京都髙島屋:    5.29 – 6.10
・倉敷市立美術館:  6.26 – 7. 7
・福岡三越:     7.30 – 8. 4
・一畑百貨店松江:  8.27 – 9. 1
・そごう神戸店:   9. 4 – 9. 9
・新潟三越:     9.14 – 9.23

前回、再興第97回 院展 の感想

 

フランシス・ベーコン展の感想


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まず、1作目から「ベーコン作品はガラスを通して観ること」との説明がありました。本人が、そう希望していたとのことです。過去に、この、東京国立近代美術館や横浜美術館等での個別の所蔵作品展示にてガラスがしてあったかな? と記憶に定かでないのですが、ともかく、その趣旨から、今回、全点ガラスの中に展示してあります。

ガラスがあると自分や他人の姿、照明の光などが反射して見づらいな、という感があるのですが、ロスコ同様、それは作品と「対話」させたい意図なのだろうと思いつつ足を進めます。

しかし、一点ずつ観て行くに、ガラスに映る自分の姿と作品が重なることによって、だんだんと「お前も(おめーも に近い)、こうなるのだ。実はこうだろ?」とか問い詰められているかのような感覚に陥ってしまいました。特に消えゆく肖像画シリーズの前では恐怖心すら感じたほどです。存分に「対話」させられましたね。これが「精神神経への攻撃」の一つ?

それから、後期の作品での潰れた顔やひねったり曲げたりした体型ですが、これらは粘土細工が先にあったものではないかと思っていたのですが、そういう解説はありませんでした。本人自身がそう言っていた「ごみ溜め」のアトリエの写真や映像にも、そういう作業台があるように見あたりません。となると、彼は、すべて頭の中で再構成して表現したのでしょうか。それは、驚きです。

人体表現については、会場ではX線による骨格把握が出来るようになったことが影響しているとの解説でしたが、図録によるとドガにも影響を受けているとのこと。確かにドガの晩年のバスタブ・シリーズには、「背骨の最上部は皮膚から突き出さんばかり」の極端に不自然な体型の表現があり、これがベースにあったとは新たな発見です。

ドガ: 浴後、うなじを拭く女
ドガ 『 浴後、うなじを拭く女 』 1898  オルセー美術館
大サイズ/購入 オールポスターズ

ところで、所蔵が豊富な(おそらく一番多いのではないかと思うのですが)、イギリスのテート・モダンから1点だけしか来ていなかったのは意外でした(→ こちらが テート・モダンHPのベーコン作品一覧ページ)。テートからは、秋にターナー作品が大挙して来ますが、ターナー展はオーストラリアも回ってきますので、高額な保険金なども計算すると、世界規模の巡回展でないと成立できないのかもしれません。

ともかく、国内には所蔵が少なく、昨今のオークションでの超高額落札状況を見るに、今後も国内で取得される可能性は低いベーコン作品。生涯の作品全般を一挙に把握できる大規模回顧展です。それぞれに、直接会って「対話」をされること、お勧めです。

at 東京国立近代美術館
2013. 3. 8 – 5.26
図録 2,500円

at 豊田市美術館
2013. 6. 8 – 9. 1

>>  ベーコン作品一覧のページ

九條武子夫人の作品


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ニューオータニ美術館で開催中の「知られざるプライベートコレクション ジャパンビューティ 描かれた日本美人」展、広く複数の個人蔵作品を集めた美人画展覧会かと思っていたのですが、浮世絵コレクターの中右瑛氏によって形成された朝比奈文庫というところの所蔵作品でした(上村松園の2点のみ、他の個人蔵)。

清方、松園の、いわゆる美人画大御所の他にも、なかなかお目にかかれない、山川秀峰や池田輝方に蕉園、中村大三郎、北野恒富等、さらには、伊藤小坡、栗原玉葉、松浦舞雪(後期)等々の作品が並びます。

そういう中、一つ「おやっ?」と思ったものに、九條武子夫人(号は松契)の作品がありました。

九條武子という方は京都西本願寺法主の娘で、歌人として、また、京都女子高等専門学校(現在の京都女子大)を設立した教育者として、さらには、関東大震災後の復興の社会活動にも尽力した人です。ウィキペディア などにも、そういう記述になっています。

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ところが、アートファンのみなさんは、この写真を見られた方も多いのでは無いかと思います。左側で上村松園 が指導している、この右の人が九条武子夫人。この古い白黒の小さな写真だけでも相当な美人であることが伺えますが、事実「大正の三大美人」とされた人で、日本人離れした美人という感じですね。

松園の『 月蝕の宵 』 1916 (T05) という作品のモデルにもなっています。

この写真を見たとき、失礼ながら美人公家さんの手習いだろうか? と思ったのですが、号ももらって作品を作成されていたのですね。今回、彼女の作品に初めて逢えました。

九條武子 『 月下逍遥 』 (前期のみ展示)

作品自体は、確かに松園を引き継ぐものでしょうが、線を含めて全体が弱いかな、という感じです。(もっとも、強すぎる松園と比較したら、誰もが弱く感じるものでしょうが。。) 松園に弟子入りしたのが 1916(T05)頃で、1920(T09)頃までだったそうで、東京に出てからは先述の通り、関東大震災復興などに奔走していますので、画業に従事した期間は短かったのでしょう。

さて、山川秀峰 も、この九條武子夫人を描いています。雑誌「婦人倶楽部」の連載小説「九條武子の生涯」の挿絵を担当した後、帝展に出品され特選となった、『 大谷武子姫 』 1930(S05) という作品があります。

しかし、濃い人生を送った彼女は、昭和3年に42歳の若さで亡くなっています。美人薄命です。

at ニューオータニ美術館
前期: 3.16- 4.21 / 後期: 4.23- 5.26
図録: 2,000円

杉山寧展での「カッパドキア・シリーズ」


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日本橋タカシマヤで開催中の、悠久なる刻を求めて「杉山寧 展」に行ってきました。

杉山寧作品というと、
・灼熱の暑さの中で悠久の刻が止まったかのようなエジプト・シリーズ
・自然の中で大胆なポーズの細密画的ヌード・シリーズ
・植物等を題材にした静謐な感の抽象画シリーズ
・ギリシャの彫刻や仏像の模写シリーズ
・和菓子の鯉が水の中で動いているような止まっているような鯉シリーズ

などなど、いくつかのシリーズがありますが、今回、トルコの「カッパドキア・シリーズ」なるものに初めて逢うことができました。まさに奇岩。イヴ・タンギーの作品の中に出てきても違和感が無いような不可思議な奇岩であり、異様な迫力をもっています。

もともと個人蔵の多い作家ですが、ここで出展されていた「カッパドキア・シリーズ」も、富山県立近代美術館以外はすべて個人蔵でしたので、今回のような回顧展でなければ逢える機会は少ない可能性が高いです。

2013. 3. 6 – 3.25
at 東京・日本橋タカシマヤ

同様の出品か内容は不明ですが、10月に横浜タカシマヤでも「杉山寧展」が開催されるらしいです。

杉山寧作品一覧のページ

 

国立西洋美術館新収蔵のセザンヌ作品


今回の国立西洋美術館訪問は、もちろん、今話題の企画展である「ラファエロ展」ですが(その感想は後日アップします)、もう一つの楽しみ、今年度に新たに収蔵され、先日から展示が始まったセザンヌの作品に会うことでした。

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ポントワーズの橋と堰 』 1881  59.1*72.1

セザンヌの風景画作品の中でも、川を扱ったものはあまりありませんので、珍しい作品です。

さて、これは、セザンヌ先生のどういう謎解きでしょう?

川の流れは緩やかで、これは上流から下流を臨んだものなのか、もしくは逆なのか、一見分かりません。堰に溜まっている水面に橋の姿が反映して堰のラインと橋のラインとが重なっているようでもあり、橋が2倍の大きさになっているようにも見えます。

しかし、よく見ると、橋から手前に堰があり、そこまでの流れがストップしているようです。そして、堰から、また手前に向かって、ゆっくりと水が流れているようです。つまり、下流から上流にある橋を見ている構図ではないでしょうか。

なぜか右下の草木がぼかして描いてあり、水に溶け込んでいるようにも見せてあるのが謎です。これを描かないと川幅が広くなってしまうので、一見で上流・下流の構図が判ってしまうのかもしれません。それを避けるための細工のようにも思えます。

また一作、良い作品が収蔵されましたね。^^

セザンヌ作品一覧ページ

五島美術館の所蔵近代日本画展(予告)


昨年秋にリニューアル・オープンされた五島美術館。来年度の展覧会スケジュールが発表されました。

当館は近代日本画の所蔵も豊富であるにもかかわらず、その展示機会は少なく数年を待たないと会えないのですが、今回、5.11 – 6.16 の期間、久々にその展覧会が開催される予定になっています。蛙の表現がおもしろい小茂田青樹の『 緑雨 』などに会えるでしょう。また、ココは関東地区としては最も金島桂華の所蔵が豊富でありますので、そちらからも数点展示されることを期待します。

願わくは、ですが、新版の図録が発行されたら嬉しいですね。これまで、制作年が「不明」とされているものが多く、また、英文の表記も研究が進められていたらありがたいのです。

さて、さらには、秋の 10.26 からは光悦展。宗達とのコラボ装飾作品、こちらも期待大です。^^

近代の日本画展
5.11 – 6.16

山種美術館「琳派から日本画へ」展


yamatane201302山種美術館は院展系を中心にした近代日本画の所蔵と共に、江戸期の琳派等の作品も所蔵が豊富ですが、それらがまとまって展示されることは数年おきですので、今回は、その貴重な機会です。

平安期の和歌巻物から出発して、その料紙装飾の特化を深めた江戸琳派、そして、それに続く、明治期以降の日本画の流れを見るという企画。一般に展覧会において、近世絵画は描かれている歴史内容の解説であったり、歌の内容の説明などに終始して、断片的なことが多いように思うのですが、それに比して、この展覧会は絵画の歴史の流れを解説する形になっていて、たいへん勉強になりました。

まず、「断簡」。「断簡」とは、巻物になっていたものを各和歌ごとに切り離して軸にしたものですが、それぞれに「○○切」といった名前が付けられることがあります。今回、「石山切」とか「戊辰切」などが出品されていて、それは何だろうと思っていたのですが、その切り分けられた時・場所などにちなんで付けられているとのこと。なるほど。

また、巻物の背景には植物が描かれていることがありますが、これは順番が決まっているとのこと。それは、竹 – 梅 – 芍薬 – 蝶 – 雌日芝 – 蔦 – 竹 – 藤 の順。さらには、巻物の裏側(紙背)には松葉が摺り出されているので、巻物を開くときに松竹梅のめでたい作りになっているとのこと。なるへそー、凝ってますねぇ。

さて、琳派の作品にはいると、六曲一双の俵屋宗達の『 源氏物語 関屋澪標図屏風 』。「え? 静嘉堂文庫美術館から来ているの?」と思いきや、山種美術館にも同様の作品の所蔵があったのですね。これは知らなかった。
速水御舟は、この作品を鑑賞して感動し(静嘉堂文庫美術館本だったらしいですが)、この左隻の右上に描いてある舟を取って自らの号にしたとの説明がありました。ほー、知らなかった。。

そして、明治期の光琳評価から大正期の宗達評価へと、大観・観山・御舟・古径、そして、戦後の加山又造等々に続くのですが、宗達評価というと今村紫紅が取り上げられるはずなのですが、それは山種美術館ゆえに御舟をクローズアップした構成でした。横浜美術館だったら、違った構成になるのでしょう。館の所蔵作品によって解説内容が変わること、少し留意するのが良いですね。

何十回と訪問している山種美術館ですが、次は初顔合わせでした。お勧めです。

安田靫彦 『 万葉和歌 』 1970 (S45)
菊池契月 『 紀貫之 』 昭和前期
松岡映丘 『 斎宮の女御 』 1929-32(S04-07)
小林古径 『 蛍 』 1912 (M45)
上村松園 『 詠哥 』 1942 (S17)

まだまだ、たくさんお持ちですね。そうそう、次回展覧会で出品予定の次も楽しみです。^^

菱田春草 『 桜下美人図 』 1894 (M27)

2013. 2. 9 – 3.31  at  山種美術館