|
■「マネとモダン・パリ」展 会場: 三菱一号館美術館 期間: 2010(H22). 4. 6 - 7. 25 http://mimt.jp/manet/ 2010年4月に新しく開館した三菱一号館美術館の初めての展覧会、マネ展。 マネの作品が、日本で、これだけまとまって展示されることは希有であろうし、そもそも、マネ作品の国内所蔵は少なく、これを観逃したら、大きな機会損失である。 まず、三菱一号館美術館であるが、大きい建物である。いや、東京フォーラムの角向かい、高層ビルが立ち並ぶ現代の丸の内にあっては相対的には小さいのだが、明治の中期、周りが野原であった時に出来た建築物としては巨大である。訪問前の勝手なイメージでは、明治建造物ということで、例えば黒田清輝記念館のような木造の建物の×3倍ぐらいだろうと思っていたのだが、全然違った。岩崎の威厳たるや、当時の日本人に凄かっただろう。 館にはいると、まず3Fに上がって、そこから2Fに降りてくる展示室。これが、まるで迷路のように、ぐるぐると部屋を渡り歩いていく構造になっている。何度、部屋間の自動ドアを通り抜けたことか。。 それと、東京国立博物館の本館もそうだが、木張りの床面フロアが、これを革靴で歩くや、カツカツと音が立って我ながらうるさいというか、周りの人に悪くて気が引ける。安心して鑑賞に集中できない。スニーカー系で行くべし、と思った。 さて、マネ展。 大サイズ/購入 オールポスターズ 『 ラティイユ親父の店 』 1879 95.0*115.0 トゥルネ美術館 おやっ!この作品が来てた。 オルセーからと国内所蔵からの構成と思っていたのだが、これは意外や意外、想定外のラッキー。サイズも、そこそこ大きくて、口説きの臨場感、満点! マネの作品には、こういった、女性を口説いている伊達男/色男の絵が、他にもあって、 『 アルジャントゥイユ 』 1874 トゥールネ美術館(これは、今回、未出品) 口説きが成功すれば、絵になっても記念になるだろうけれども、結果が失敗して、ふられそうなものなら、今なら肖像権侵害ものかも? ところで、今回、マネによる、ゾラの肖像画が出展されている。 大サイズ/購入 オールポスターズ 『 エミール・ゾラ 』 1868 オルセー美術館 これは、1866年当時、「エヴェヌマン」紙にてサロンに関する記事を担当していたゾラが、1866年5月7日の記事にてマネを擁護し、「マネの居場所はルーヴル美術館にある」とまで讃えたことから物議をかもした。その後、二人は接近して、67年から68年にかけて、マネによって肖像画が描かれたという経緯によるものである。 一方、ゾラと言えば、南仏でのセザンヌの中学時代の友だちであり、パリでは一緒に下宿もしている。その後、ゾラの小説『制作』の中で、セザンヌが自分が中傷されていると感じたことで、二人が仲違いしてしまうのが 1886年。途中、双方ぶつかることはあったにせよ、40代後半まで 30年来の友好があったということになる。 ちょっと年代が混乱してしまう。それぞれの生没年は次の通り。 マネ 1832 - 1883 セザンヌ 1839 - 1906 ゾラ 1840 - 1902 つまり、ゾラとセザンヌが友好状態にあった 20代前半に、マネの『 草上の昼食 』1862-63 や 『 オランピア 』1863 が発表され、『 笛を吹く少年 』1866 をもって、一ライターとしてのゾラに賞賛されることになる。 ところがだ。ゾラが世の中に名をはせるのは、30代後半、1876年の『居酒屋』、そして 1879年の『ナナ』のヒットをもってしてである。はたまた、軍隊にてスパイ容疑にかけられ島送りにされてしまっていたドレフュス大尉を弁護して無実を主張した、1898年の『我弾劾す』によってである。 となると、マネの死後、翌年の 1884年に回顧展が開催される際にゾラが序文を書いているそうだが、ゾラが自身のブランドをもってしてマネを広めたのは(一般が認識したのは)、この肖像画が描かれた時期からは結構年月を経た、その後の時期をもってではあるまいか。 文豪に引き上げられる画家のケース、双方の年代の経緯を追わないと、後生から見ると、いっしょくたんになってしまうことがあるので注意が必要だ。 さて、近代絵画の父と呼ばれるマネの革新的な試みとは別に、単純に絵としてのみ観ると、マネは肖像画だと思う。 オルセーのサイトで "manet" で検索すると 一覧が出てくる が、パステル画も含め、やはり肖像画が良いのだ。 という前提で、今回の展覧会における肖像画は? ということで絞っていったら、やはり、、 『 スミレの花束を持つベルト・モリゾ 』 1872 オルセー美術館 だろう。黒のモリゾ。 当然、 『 散歩 』 1880頃 東京富士美術館 『 黒い帽子のマルタン夫人 』 1881 メナード美術館 なども良い。 ちょうど、この時期、オルセーから、この 『 スミレの花束を持つベルト・モリゾ 』 1872 は東京に、 『 笛を吹く少年 』 1866 は、サンフランシスコへ、 では、『 バルコニー 』 1868-69 いずこに? 大サイズ/購入 オールポスターズ と思っていたら、実は、上海万博のフランス館 に行っているのだった! その他、展覧会として意外なところでは、ティソやベローの作品が数点出展されている。彼らの写真のような細密画から当時の状況を思い描きつつ、マネの作品を観ていくと、彼による切り取り方が、また、はっきりとするようにしてあるようだ。 図録は 2,500円にしてレベルの高い大変充実した永久保存版の一冊。 なお、当展覧会の出品目録 が三菱一号館HPに掲載されている。 ※ マネの作品一覧ページ ※ この記事は、2010. 4.29 ~ 2010. 6. 1 の期間、アメブロに掲載したものを、画像を加え再編集したものです。[ 2013. 5.25記 ] |