何か確認できる数字があるわけではないが、モームの小説が近代絵画の価値を広く一般に伝えることに大きく貢献してきたことは間違い無いだろう。絵を観るよりも先にモームの小説を読むと、それだけで感動した気になるほど、その文章による表現力はすごい。
この「月と六ペンス」はゴーギャンの伝記を元に書かれたフィクションであり、あたかも二人が知人であったかのようなストーリー立てになっている。
さて、小説の最後には、未完の大作が小屋と共に焼き払われてしまう。それにもっとも近いゴーギャンの作品は、おそらくは、ボストン美術館の
『 我々はどこから来たのか、我々は何か、我々はどこへ行くのか 』(1897)であろうと思われる。しかし、それは一作品というよりは、ゴーギャンすべての作品のエッセンスを総合したものとして、読者がそれぞれに設定して良いものなのだろう。「失われた未完の大作」であることが、その設定に自由度を多く与えてくれている。