「 ロバート・キャパ/ゲルダ・タロー 二人の写真展 」


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戦場カメラマンの祖:ロバート・キャパの恋人であったゲルダ・タローとキャパ、それぞれにに焦点を当てた2本立てからなる展覧会です。

ゲルダ・タローは、キャパと同じくユダヤ人であり、ナチスから逃れつつの決死の活動を行った人です。女性初の戦場における報道カメラマンとして実績をあげつつあったものの、スペイン内乱取材中に暴走戦車に轢かれて 26歳で死んでしまいます。

その後、キャパの影に隠れ歴史の中に埋もれてしまっていたのですが、今回、ICP 国際写真センター(キャパの弟であるコーネル・キャパ氏が、後に設立した団体)の企画によって、その功績を再評価するという意義ある展覧会になっています。昨今の戦場女性カメラマンたちの活動と重ねる合わせることになるでしょう。

また、そのスペイン内乱時に、タロー、キャパ、シーモアの3人によって撮影されたフィルムが入ったスーツケースが長らく行方不明となっていたものが、2007年に発見されてニュースとなった「メキシカン・スーツケース」。この中の作品からも2点が出品されています。

capa201302さて、この展覧会と同期して、丁度、NHKスペシャルにて沢木耕太郎氏によるレポルタージュ番組が放映されました。現地調査と共に、複数の写真をコンピュータ3D分析することにより、かの有名なこの写真 「崩れ落ちる兵士」が、銃で撃たれた瞬間を捉えたものでは無く、演習中に坂で一人「滑りこける瞬間」だという分析でありました。また、カメラ・フィルムのサイズから、それはタローの撮影だったのでは無いか、という指摘です。

タローの撮影であったか、キャパの撮影であったかは、たまたま2人がカメラを交換して撮影したかもしれず、真偽は知れないでしょう。ビートルズのジョン&ポールのように、たとえ別々の作詞作曲であっても、当初から共同作品という取り決めがあったのであれば、それは2人のどちらでも良いことになります。

しかし、世界中が銃弾で即死する瞬間と思っていた写真が、兵士が一人滑りこけた瞬間だとしたら、世界の歴史はみんなで勘違いしたことになってしまいます。

確かに、銃弾が兵士の体をぶち抜いた際には肉片が飛び散りそうなものの、体のどの部分にもそれは見られず、銃弾がどの方向から来たのかも判別できません。展覧会場にもありましたが、掲載された当時の雑誌は印刷の質が良くなく、銃弾の有り無しまでは判別できません。そもそも、デュフィの云う通り、人は、いつもいつも詳細を見ているわけではありませんが。

もっとも、当初、写真を送った2人に、そこまでの意図は無かったのかもしれません。現代のように被写体の一部をデジタル矯正することは出来なかった時代ですので、映っていた被写体自体を意図的に修正することは不可能でした。フランスの雑誌 『ヴュ』 に掲載される際に、説明文によって誇張させることになったのかもしれず、その後は、世の中が勝手に一人歩きしてしまったのでしょう。

人が滑りこける時、こんな転け方をするのだろうか? といった疑問もあるものの、カメラが写す瞬間は時に意外な形を見せるものであり、やはりNHK番組の分析の通り、事実は演習中の出来事であったように思えます。

横浜美術館と同様、キャパ作品を多く所蔵する東京富士美術館の 2006年発行図録「ロバート・キャパ - その生涯と作品」によると、過去に、この写真の真実性に関する論争が世界中でいくつもあったことの解説があります。また、この兵士=フェデリコ・ボレル・ガルシア氏は、この戦闘で戦死したとあります。

とはいえ、たとえ事実は彼が生き延びたのだとしても、50万人もの人が戦死したスペイン内戦。その戦闘の中で、軍服も着ていない市民兵が銃を持って戦場で倒れるという異常で悲惨な事実がその時実際に起きているということ、それを1枚の写真が代表して世界中に伝えたことは「真実」であったといえるでしょう。
そして、その後の報道写真の拡大につながっていたことは歴史であります。

2013. 1.26 – 3.24
at 横浜美術館