五島美術館の所蔵近代日本画展(予告)


昨年秋にリニューアル・オープンされた五島美術館。来年度の展覧会スケジュールが発表されました。

当館は近代日本画の所蔵も豊富であるにもかかわらず、その展示機会は少なく数年を待たないと会えないのですが、今回、5.11 – 6.16 の期間、久々にその展覧会が開催される予定になっています。蛙の表現がおもしろい小茂田青樹の『 緑雨 』などに会えるでしょう。また、ココは関東地区としては最も金島桂華の所蔵が豊富でありますので、そちらからも数点展示されることを期待します。

願わくは、ですが、新版の図録が発行されたら嬉しいですね。これまで、制作年が「不明」とされているものが多く、また、英文の表記も研究が進められていたらありがたいのです。

さて、さらには、秋の 10.26 からは光悦展。宗達とのコラボ装飾作品、こちらも期待大です。^^

近代の日本画展
5.11 – 6.16

山種美術館「琳派から日本画へ」展


yamatane201302山種美術館は院展系を中心にした近代日本画の所蔵と共に、江戸期の琳派等の作品も所蔵が豊富ですが、それらがまとまって展示されることは数年おきですので、今回は、その貴重な機会です。

平安期の和歌巻物から出発して、その料紙装飾の特化を深めた江戸琳派、そして、それに続く、明治期以降の日本画の流れを見るという企画。一般に展覧会において、近世絵画は描かれている歴史内容の解説であったり、歌の内容の説明などに終始して、断片的なことが多いように思うのですが、それに比して、この展覧会は絵画の歴史の流れを解説する形になっていて、たいへん勉強になりました。

まず、「断簡」。「断簡」とは、巻物になっていたものを各和歌ごとに切り離して軸にしたものですが、それぞれに「○○切」といった名前が付けられることがあります。今回、「石山切」とか「戊辰切」などが出品されていて、それは何だろうと思っていたのですが、その切り分けられた時・場所などにちなんで付けられているとのこと。なるほど。

また、巻物の背景には植物が描かれていることがありますが、これは順番が決まっているとのこと。それは、竹 – 梅 – 芍薬 – 蝶 – 雌日芝 – 蔦 – 竹 – 藤 の順。さらには、巻物の裏側(紙背)には松葉が摺り出されているので、巻物を開くときに松竹梅のめでたい作りになっているとのこと。なるへそー、凝ってますねぇ。

さて、琳派の作品にはいると、六曲一双の俵屋宗達の『 源氏物語 関屋澪標図屏風 』。「え? 静嘉堂文庫美術館から来ているの?」と思いきや、山種美術館にも同様の作品の所蔵があったのですね。これは知らなかった。
速水御舟は、この作品を鑑賞して感動し(静嘉堂文庫美術館本だったらしいですが)、この左隻の右上に描いてある舟を取って自らの号にしたとの説明がありました。ほー、知らなかった。。

そして、明治期の光琳評価から大正期の宗達評価へと、大観・観山・御舟・古径、そして、戦後の加山又造等々に続くのですが、宗達評価というと今村紫紅が取り上げられるはずなのですが、それは山種美術館ゆえに御舟をクローズアップした構成でした。横浜美術館だったら、違った構成になるのでしょう。館の所蔵作品によって解説内容が変わること、少し留意するのが良いですね。

何十回と訪問している山種美術館ですが、次は初顔合わせでした。お勧めです。

安田靫彦 『 万葉和歌 』 1970 (S45)
菊池契月 『 紀貫之 』 昭和前期
松岡映丘 『 斎宮の女御 』 1929-32(S04-07)
小林古径 『 蛍 』 1912 (M45)
上村松園 『 詠哥 』 1942 (S17)

まだまだ、たくさんお持ちですね。そうそう、次回展覧会で出品予定の次も楽しみです。^^

菱田春草 『 桜下美人図 』 1894 (M27)

2013. 2. 9 – 3.31  at  山種美術館

室井東志生 展


短い期間ですが、日本橋タカシマヤにて「室井東志生 展」が開催されています。
歌舞伎の板東玉三郎の肖像画で有名で、10点ほどが出品されていました。会場には玉三郎本人からの想い出の言葉も掲載してありました。

橋本明治を師としたことで、その他、着物姿の女性肖像画では、線は細いものの(普通と言いますか)、明治作品の表情やポーズなど、よく似ていると思います。

今日は初日とあり、奥様が会場に来ておられました。

at 日本橋タカシマヤ
2.20 – 2.26

3月大型美術展ラッシュの中での秘蔵展


ほぼ日々更新してます「気になる美術展一覧(美術展スケジュール)」(ページの右上端のリンクから行ってください ↑)、公立の美術館の来年度予定が、そろそろ出揃ってくるはずですので、それを足すと 100件以上のリストになりそうです。

さて、今年の3月は、ラファエロにベーコン、ルーベンスと、すごい大型展覧会が目白押し。アートフェア東京や春の院展も3月中に開催とあり、日程の調整もさることながら、財布の方も心配な状況です。^^;

そんな中、あまり取り上げられていない感じですが、次の2展も気になります。

●「住友グル-プ秘蔵名画展 - 花 -」 at 泉屋博古館(東京) 3. 2 – 5.12

HPの紹介によると、これは泉屋博古館所蔵品だけでなく、「住友グル-プ各社が所蔵する名画、それらは、普段、公開されることはない作品」とあり、いつもは会社の役員室とか応接室などに飾ってあるような知られざる作品が出てくる可能性あります。これは気になります。

●「知られざるプライベートコレクション ジャパンビューティ 描かれた日本美人」
at ニューオータニ美術館 3.16 – 5.26

こちらも、HPを見るに、松園・夢二・蕉園の作品、これまでに会ったことがありません。ニューオータニのコレクションでは無く、個々のプライベートコレクションを集めた展覧会のようです。鏑木清方、北野恒富作品と共に、作品数の少ない池田輝方や中村大三郎、山川秀峰も出品されるとあり、これは前期・後期両方とも行かないと! という感じですね。^^

 

グッゲンハイム美術館の具体展


guggenheim201302
ニューヨークのグッゲンハイム美術館で具体展が始まりました。この美術館もそうですが、アメリカやイギリスなどの大手美術館は、展覧会ホームページが、そのイベントと並行して徐々に充実していくということがよくあるので、このサイトも、だんだんと内容がリッチになっていくのではないかと予測します。

と期待しつつサイトを見ていたら、「iアプリでも具体展を見よう」という記事が載っていました。早速ダウンロードしてみると、アプリのインストール後に 100メガぐらいの追加DLが必要でしたが、具体展のファイルがたくさん載っています。

嬉しいのは、キュレーターさんによる、この展覧会の、具体のきちんとした説明動画。10本以上載っています。学術的にも意味のあるネットサービスになっています。おそらくは、サイトの方にも追って掲載されるのでしょうけれど、当初はスマホ優先で来ましたね。

こういうサービスが日本の美術展でも広がってほしいところです。日本の現状は、どうも、共催のマスコミによる商業的Webサービスが基本で、きれいに作ってはありますが、内容が深くなく、また、展覧会が終わると消されてしまうという学術性の低い提供に終始している感あります。:-(

さて、MoMAでも “Tokyo 1955–1970: A New Avant-Garde” が開催されており、これは東京を中心にした戦後のアバンギャルド特集。ニューヨークでは、にわかに日本前衛芸術ブームって感じですね。今後も定着していったら良いなと思います。

Gutai: Splendid Playground
2013. 2.15 – 5. 8
at ソロモン・R・グッゲンハイム美術館

スウェーデンの女流画家 ヒルマ af クリント


ストックホルム近代美術館から新しい展覧会のニュースレターが届きました。今回は、ヒルマ af クリント (1862–1944) というスウェーデン出身の女流画家の回顧展。結構、美人ですね~。

これまで歴史に埋もれていたのですが、この人、実は、カンディンスキーやモンドリアン、マレーヴィチなどよりも先に抽象画を切り開いた人だそうで、美術展サイトには「ヒルマは未来のために絵を描いた」という解説があります。

生前には評価されなかった彼女の作品を、数十年の時を経て再評価しようという展覧会。サイトを見ると何点かの作品が紹介されています。円形のフォルムは、上記の抽象画家たちというよりは、どちらかというと ドローネー風であり、また、装飾・デザインのジャンルとも重なっている作品が多いかと思います。

時を経たアーティスト再評価掘り起こし型美術展、さて、後の時代にマッチして評価されるようになるのか否か、それは、企画する美術館の学芸員さんにとっても、チャレンジでありましょう。

Hilma af Klint – A Pioneer of Abstraction
2013. 2.16 – 5.26
at  ストックホルム近代美術館

クラーク・コレクション展


mitsubishi201302

いよいよ、期待大のクラーク・コレクションがやってきました。
目玉はなんと言っても、印象派。ルノワール。

ルノワールの作品は晩年の太った浴女シリーズか静物画以外は、デビューから生涯を通して画風の変化が少なく、どの時期のものか作成年を知らないと判らないことが多々あります。

その中でも、第1回印象派展の 1874年頃から 1880年代の、明るい肖像画作品が多いのが、このコレクションの特徴でしょう。『 うちわを持つ少女 』『 劇場の桟敷席(音楽会にて)』『 鳥と少女 』などなどと傑作が並びます。

clark_1若い娘の肖像(無邪気な少女)』のモデルは女優:アンリエット・アンリオ。国立ウェールズ美術館蔵で、第1回印象派展に出品された 『 パリジェンヌ 』と同じ頃のアンリオさんです。

おもしろいところでは、モネの『 日の出、印象 』に比して? の『 日没 』(1879 or 1881)。モネに先立つことの 『 ヴェネツィア 』(1881) は、1908年のモネのヴェネツィア・シリーズ作品とトーンが似ており、二人ともイタリアに同様の感覚を持ったかなと思いました。

さらには、モネ、シスレー、ピサロ 等々と、明るい光の印象派勢揃いです。堪能できます。

さて、ココでは少し趣向を変えた感想を。

まず、ジェローム作品が3点も展示。オルセーにあるようなスペクタクルもの ではありませんが、それでも「こんな歴史の状況ってあったの?」というような異様な世界の細密画です。映画かゲームにあるような、彼独特の不可思議な世界に引き込まれてしまいます。やはり、どこかでジェローム特集の一大企画展を開いてもらえないかな。一度、総まとめで鑑賞したいです。

個人的に新たな発見として、ボルディーニ。イタリア出身の画家。40*30 程度の小さな作品ですが、切れ切れの布を繋ぎ合わせたかのような服、そして風景もそれに合わせたトーンで表現された作品。このタッチはおもしろい。今後、トレースしてみたいと思います。

2013. 2. 9 – 2013. 5.26
at 三菱一号館美術館

 

「 ロバート・キャパ/ゲルダ・タロー 二人の写真展 」


yokohama201301

戦場カメラマンの祖:ロバート・キャパの恋人であったゲルダ・タローとキャパ、それぞれにに焦点を当てた2本立てからなる展覧会です。

ゲルダ・タローは、キャパと同じくユダヤ人であり、ナチスから逃れつつの決死の活動を行った人です。女性初の戦場における報道カメラマンとして実績をあげつつあったものの、スペイン内乱取材中に暴走戦車に轢かれて 26歳で死んでしまいます。

その後、キャパの影に隠れ歴史の中に埋もれてしまっていたのですが、今回、ICP 国際写真センター(キャパの弟であるコーネル・キャパ氏が、後に設立した団体)の企画によって、その功績を再評価するという意義ある展覧会になっています。昨今の戦場女性カメラマンたちの活動と重ねる合わせることになるでしょう。

また、そのスペイン内乱時に、タロー、キャパ、シーモアの3人によって撮影されたフィルムが入ったスーツケースが長らく行方不明となっていたものが、2007年に発見されてニュースとなった「メキシカン・スーツケース」。この中の作品からも2点が出品されています。

capa201302さて、この展覧会と同期して、丁度、NHKスペシャルにて沢木耕太郎氏によるレポルタージュ番組が放映されました。現地調査と共に、複数の写真をコンピュータ3D分析することにより、かの有名なこの写真 「崩れ落ちる兵士」が、銃で撃たれた瞬間を捉えたものでは無く、演習中に坂で一人「滑りこける瞬間」だという分析でありました。また、カメラ・フィルムのサイズから、それはタローの撮影だったのでは無いか、という指摘です。

タローの撮影であったか、キャパの撮影であったかは、たまたま2人がカメラを交換して撮影したかもしれず、真偽は知れないでしょう。ビートルズのジョン&ポールのように、たとえ別々の作詞作曲であっても、当初から共同作品という取り決めがあったのであれば、それは2人のどちらでも良いことになります。

しかし、世界中が銃弾で即死する瞬間と思っていた写真が、兵士が一人滑りこけた瞬間だとしたら、世界の歴史はみんなで勘違いしたことになってしまいます。

確かに、銃弾が兵士の体をぶち抜いた際には肉片が飛び散りそうなものの、体のどの部分にもそれは見られず、銃弾がどの方向から来たのかも判別できません。展覧会場にもありましたが、掲載された当時の雑誌は印刷の質が良くなく、銃弾の有り無しまでは判別できません。そもそも、デュフィの云う通り、人は、いつもいつも詳細を見ているわけではありませんが。

もっとも、当初、写真を送った2人に、そこまでの意図は無かったのかもしれません。現代のように被写体の一部をデジタル矯正することは出来なかった時代ですので、映っていた被写体自体を意図的に修正することは不可能でした。フランスの雑誌 『ヴュ』 に掲載される際に、説明文によって誇張させることになったのかもしれず、その後は、世の中が勝手に一人歩きしてしまったのでしょう。

人が滑りこける時、こんな転け方をするのだろうか? といった疑問もあるものの、カメラが写す瞬間は時に意外な形を見せるものであり、やはりNHK番組の分析の通り、事実は演習中の出来事であったように思えます。

横浜美術館と同様、キャパ作品を多く所蔵する東京富士美術館の 2006年発行図録「ロバート・キャパ - その生涯と作品」によると、過去に、この写真の真実性に関する論争が世界中でいくつもあったことの解説があります。また、この兵士=フェデリコ・ボレル・ガルシア氏は、この戦闘で戦死したとあります。

とはいえ、たとえ事実は彼が生き延びたのだとしても、50万人もの人が戦死したスペイン内戦。その戦闘の中で、軍服も着ていない市民兵が銃を持って戦場で倒れるという異常で悲惨な事実がその時実際に起きているということ、それを1枚の写真が代表して世界中に伝えたことは「真実」であったといえるでしょう。
そして、その後の報道写真の拡大につながっていたことは歴史であります。

2013. 1.26 – 3.24
at 横浜美術館

1月の高額落札アート作品トップ4


先月は、たまたまなのか、もしくは例年あまり活発ではない月なのか、先々月よりも1桁小さい額の落札となってますので、トップ4までだけ抜き出しました。

1. エドワード・ヒックス 『 Penn’s Treaty 』  254万ドル
2. Lin Sanzhi 『 黄山旧游 』  176万ドル
3. Xu Beihong 『 八十七神仙 』  98万ドル
4. エミール・フィラ 『 Malíř 』  91万ドル

artnet の一覧はこちら(画像が見られますが、一月で更新されます)

畠山記念館: 光琳の小袖


hatakeyama201301畠山記念館には、いくつもの光琳作品の所蔵がありますが、その作品が展示されるのは数年に一度であり、その機会を逃すと、しばらく会えないことになります。今回、6年ぶりに公開されているのが、パンフの表示を飾っている、この作品、

白梅模様小袖貼付屏風 』  二曲一双   各169.0*186.0

文字通り、白梅の模様を小袖用にデザインしたものを屏風に貼り付けたものです。
光琳の小袖デザインというと、東京国立博物館蔵の「白綾地秋草模様小袖」のように色彩画的なものがあります。

しかし、この白梅模様は墨画淡彩による白黒の梅であり、濃い枝に対して梅の花は薄く描かれており、ぱっと見、花も葉も無い枝だけのようにも見えます。

とはいえ、山水画のように枯れてしまっているわけでなく、また、抱一が銀屏風に描いた冷たい・寒い梅とも違って、暖かみがあり色気もあるのです。

淡く丸く咲いた梅の花。これを身にした、うら若き女性は、本人そのものと同期して映えたことでしょう。また、彼女を見る周りの人たちにも、暖かな成長の期待を抱かせたことでしょう。

「春を祝う - 仁清・乾山・光琳 -」
at  畠山記念館
2013. 1.19 – 3.20

 

画家の略歴


各画家の作品一覧に追加して「略歴」の記載を始めました。まずは、大観、清方、松園、御舟などから開始しました。

資料は比較的容易に入手できるからと独自にまとめようとすると、これが意外と難しい。

生い立ちや受賞などの記事は多いものの、特筆される作品が生まれた背景が分かるような「略歴」にしたいと思っているのですが、そこまで入れようとすると作品そのものの説明となり、1行ではまとまり切れなくなってしまいます。その時の時代背景も含めようとすると、それも字数オーバーになりがちなのです。

また、それぞれの資料を参照していると、簡潔にまとめようとされた結果か、時系列を読み間違いしてしまいそうな表記になっているようなケースも時々あり、複数の資料を比較検討してそれぞれ確認の上で整理することも必要です。

まずは 10行程度でまとめておりますが、適宜、追記改訂していきます。作品の把握に併せて、語録も含め、それが作成された時が、その画家の一生において、どういうフェーズにあったのか確認できるような、それぞれユニークなページにしていきたいと考えております。