コールドロン『 ルツとナオミ 』1886 ウォーカー・アート・ギャラリー
Philip Hermogenes Calderon "
Ruth and Naomi "
旧約聖書「ルツ記」、ナオミ と ルツ そして ボアズに関する話です。紀元前 12世紀頃の人。
士師によって世が治められていた頃、土地に飢饉が起きたため、
ユダ
[Judah]
のベツレヘム
[Bethlehem]
にいた、ある男が妻と 2人の息子を連れて
モアブ
[Moab]
の地へ移動し、そこにしばらく滞在した。
その男の名は
エリメレク
(Elimelek)
といい、妻の名は
ナオミ
(Naomi)
、そして 2人の息子は
マフロン
(Mahlon)
と
キルヨン
(Kilion)
といった。彼らはユダのベツレヘムの
エフラタ人
/Ephrathites/
であった。彼らはモアブの地へ行って、そこで生活したが、夫の
エリメレク
は
ナオミ
と 2人の息子を残して死した。
息子らはモアブの女性を妻に迎え、1人を
オルパ
(Orpah)
といい、もう 1人を
ルツ
(Ruth)
といった。その後、彼らはそこに 10年ほど住んだが、
マフロン
も
キルヨン
も共に死に、
ナオミ
は夫にも息子にも先立たれたのであった。
ある時、モアブにいた
ナオミ
は、国元にて主が食物をお与えになって助けられていることを聞いたので、彼女は嫁たちと共に故郷へ帰ることにした。彼女は 2人の嫁と共に、しばらく住んだ土地を離れてユダの地へ戻る道へと進んだ。
しかし、
ナオミ
は嫁たちに告げる。
「 2人とも、それぞれ実家に戻りなさい。先立った夫たち、そして私にも親切にしてくれたように、主があなたたちに慈しみを賜わりますよう。また新たな夫に嫁ぎ、その家で安息を得られますように 」と。
彼女は 2人にキスし、別れを告げ、そして彼女たちは涙を流した。しかし、2人は
「 いいえ、私たちは、お義母さまと一緒に行きます 」と答えたのであった。
ナオミ
は諭した。
「 2人とも、お帰りなさい。どうして、私と一緒に行きたいというの? 私に、あなたたちの夫となる新たな息子ができるとでも? ほほほ。娘たち、実家に戻りなさい。私は、もう、この歳で再婚などできません。僅かなりとも希望があったとして - 今宵、夫を得て息子の命を得たとしても - その子が成長するまで待つというのですか? その間、ずっと独り身で? そんなことしたら、主の手によって、あなた方以上に、私が痛い目に遭うことになりますわ 」
ここに、彼女らは再び声をあげて泣いた。
オルパ
は姑にキスをして別れを告げた。しかし
ルツ
は離れようとしなかったのである。
ナオミ
は
ルツ
に
「 ほら、オルパは言う事聞いたじゃない。自分の家族と神の元に戻りますよ。あなたも一緒に行きなさい 」と言った。
しかし
ルツ
は答えた。
「 私を行かせないでください。お義母さまの行かれる所、住まれる所、私 ついてまいります。あなたの民は私の民、あなたの神は私の神。あなたが死なれるところが私の死ぬところで、そこに葬られます。もし、死までもがお義母さまと私とを別つというのなら、主よ、どうか、私を厳しく罰してください 」と。
ナオミ
は
ルツ
が一緒に付いてくると決心していることを知り、もう、それ以上のことは言わなかった。
なので、2人はベツレヘムまで歩んでいった。
彼女らがベツレヘムに着くや、町中 大騒ぎとなり、女たちは聞いた。
「 ありゃ まぁ! あんた、ナオミさんかえ?」
彼女は
「(楽しみの意味がある)「ナオミ」と呼ばないでください。(苦しみの意味がある)「マラ」と呼んでくださいな。全能の主には痛く苦労させられました。出ていく時は豊かでしたが、帰ってきた時は空っぽなんですから「ナオミ」とは呼べません。主は私を苦しめられ、不幸をお与えになられました 」と答えた。
こうして
ナオミ
は、モアブの女で息子嫁の
ルツ
を連れてモアブからベツレヘムに戻った。それは大麦の刈り取りが始まる頃であった。
[1章]
※「
聖書地図
」より。関連する場所に赤丸を付けた。
さて、
夫
エリメレク
の一族に身分の高い親族が 1人いて、その人の名を
ボアズ
(Boaz)
といった。
モアブの
ルツ
が
ナオミ
に
「 畑に行かせてください。誰か親切そうな人が居られたら、その方の後ろで落ち穂を拾わさせてもらいます 」と言うと、
ナオミ
は
「 行っておいで 」と答えた。
なので、
ルツ
は出かけて行って畑に入り、収穫の人たちの後ろで落ち穂を拾い始めたが、そこはたまたま、
エリメレク
の一族である
ボアズ
の畑であったのである。
その時、
ボアズ
がベツレヘムからやって来るや、収穫者たちに「主が、みんなと共におられますように」と言うと、彼らは「主が、あなた様を祝福されますように」と答えた。
ボアズ
が収穫の監督者に
「 おや? あの、若い女性は、どこの人?」と聞くと、
その監督者は
「 あの人は ナオミさんと一緒にモアブから来たモアブの人です。『収穫者たちの後ろで、麦束の間の落ち穂を拾わさせてください』と言うのです。朝から畑に出て、休憩所でちょっと休んだだけで、ずっと働いていますよ 」と答えた。
ボアズ
は
ルツ
に言う。
「 娘さん、よくお聞き。他の畑に穂を拾いに行くことはないよ。ここから離れてはいけない。私んところで働いている女たちと一緒にいなさい。男たちが麦刈りしている畑を見ておいて、女たちに付いていきなさい。男たちには、あなたの邪魔をしないように と言っておいたからね。喉が渇いたときはいつでも、水が溜めてある釡に行って飲んだらいいよ 」と。
この時、彼女は深々とお辞儀をして
「 私のような よそ者に、どうして、そのように親切にしていただけるのでしょう?」と聞くと、
ボアズ
は
「 私は聞いてますよ。あなたが夫を亡くされてから、姑さんに尽くされたこと。自らの両親と生まれた土地を離れて、見知らぬ地にやって来られたこと。
あなたの行いに対して、どうか、主が豊かに報いてくださいますように。イスラエルの神である主の御翼の下に身を寄せてきた あなたが、どうか、主から十分の報いを得られますように 」と言った。
彼女は言った。
「 ご主人さま、どうか、これからもご厚意をいただけますように。私はあなたの仕え女の 1人にも及びませんのに、こんな私に優しくお声を掛けていただけました 」と。
食事時、
ボアズ
が言った。
「 ここにおいで。パンを取ってワインビネガーに浸しなさい 」
彼女が収穫者たちのところに座ると、彼は炒り麦を与えた。彼女は食べたいものを食べたいだけ食べたが、全部は食べきれなかった。
再び 落ち穂を拾おうと彼女が立ち上がったとき、
ボアズ
は男たちに命じた。
「 彼女に麦束の間でも穂を拾わせなさい。とがめてはならんぞ。
(小声)それとな、束からいくつか穂を引き抜いておいて、彼女が拾えるようにしておくんだ。叱ったりするなよ 」
こうして
ルツ
は夕暮まで畑で落ち穂を拾った。拾った穂を脱穀すると、それは 1エパ(≒23リットル)ほどあった。彼女はそれを携えて町に戻り、どうやって集めたのかを姑に話した。また、食べ残して持ち帰ったものを取り出した。
彼女の姑が
「 あなた、今日 どこで落ち穂 拾ったの? どこで働いてたの? そのように顧みてくださった方に祝福ありますように!」と聞くと、
ルツ
は姑に、誰のところで働いていたかを話しし
「 今日、働いたところの方のお名前は、ボアズさんといいます 」と、そう言った。
「 主が、その方を祝福されますように! 主は生きる者にも死せる者にも、慈しみを賜わることを惜しまれることはありません 」と
ナオミ
は言い、加えて
「 その人は近い親戚です。彼は私たちの後見人の 1人ですよ 」と言ったのである。
モアブの女
ルツ
は
「 あの方は、こうも、おっしゃいました。『刈取りが全部終るまで、自分の所の者たちのそばについていなさい 』と 」。
ナオミ
は、嫁の
ルツ
に
「 それは良いわね。他の人の畑に出たら苛められるかもしれないから、彼のところで働く人たちと一緒に居るのが良いわ 」と言った。
こうして、
ルツ
は、大麦と小麦の刈り取り時期が終わるまで
ボアズ
のところで働く女たちのそばについて落ち穂を拾った。そして、彼女は姑と共に暮らした。
[2章]
ある日、
ルツ
の姑である
ナオミ
は言った。
「 娘よ、あなたが幸せになれる家を、私は探してあげないといけませんね。あなたが一緒に働いている女たちのところの ボアズさんは、私たちの親戚です。今宵、彼は麦打ち場で大麦をあおぎ分けます。
あなたは体を洗って香油を塗り、晴れ着を着て出かけて麦打ち場に降りて行きなさい。でも、みんなが飲み食いを終るまで、彼に知られてはなりませんよ。彼が寝る時、その寝る場所を見定めて、そこに行き、彼の足の所をまくって、そこに寝なさい。彼はあなたがなすべきことを知らせるでしょう 」
ルツ
は「その通りにします」と言って、麦打ち場に降り、姑が言ったように実行した。
ボアズ
は食事を終えて、良い気分になると、積みわらの離れに行って、そこで体を横にした。
ルツ
は忍び足で彼に近づくや、彼の足の部分をまくって、そこに寝た。
真夜中に、彼は、はっと気が付いて周りを見回してみると、足元に 1人の女性が寝ているではないか!
「 誰や、あんた!?」と聞くや、
ルツ
は
「 あなたの仕え女の ルツです。あなたの服の裾を私に掛けてください。あなたは私たちの後見人であられますので 」と言った。
「 主の祝福がありますように、娘さん。あなたは貧富にかかわらず若い人に従い行くことなく、最後に示したこの誠実は、先に示したものよりも勝っています 」と彼は答えた。
「 恐れることはないよ、娘さん。あなたが求めることを、私は行いましょう。この町のみんなは、あなたが高貴な女性であること、解ってます。ただ、確かに私は親族の後見人ですが、私よりも、もっと近い親戚があります。
今宵、ここに留まりなさい。朝になって、もし、彼が、あなたの後見人として義務をつくすならば、よろしい、その人に渡します。しかし、主は生きておられます。彼にその気が無いなら、私が引き受けましょう。朝まで、ここでお休みなさい 」と。
彼女は夜が明けるまで、その場に寝ていて、みんなが気付く前に起き上がった。それは、
ボアズ
が「この麦打ち場に女 1人で来たと誰にも知られてはいけない」と言ったからである。彼が「着るショールを持ってきて広げなさい」と言って、彼女がそうすると、彼は 6オメル(≒13.8リットル)の大麦をその中に入れて彼女に背負わせた。
そうして、彼は町へ帰って行った。
ルツ
が
ナオミ
のところへ行くと、彼女は「どうでした?」と聞いた。
ルツ
は
ボアズ
が行ったことをすべて彼女に話しした。そして
「 あの方は『何も持たずに姑さんのところに戻ってはいけないよ』と言われて、6オメルの大麦をくださいました 」と言った。
ナオミ
は
「 事がどうなるかまでお待ちなさい、娘よ。あの人は、今日、その事が決着しないことには、落ち着かないはずです 」と言った。
[3章]
そうこうして、
ボアズ
は町の門のところへ上っていって、そこに座った。ちょうど、その時、先に彼が言っていた後見人が通りかかった。
ボアズ
が
「 こちらへ来て、お座りください 」と言うと、彼はやって来て着座した。
ボアズ
はまた、町の長老 10人を招いて
「 こちらにお座りください 」と言うと、彼らもそうした。
彼は、その後見人に
「 モアブから戻って来た ナオミさんが、我々の親族である エリメレク氏が所有していた土地を売ろうとされてます。ですので、私はあなたにお伝えして、ここにお座りの方、ならびに、長老さんたちの前で、それをお買いになることをお勧めしようと思ったのです。もし、あなたが お受けになられるのであれば、そうしてください。もし、そうでないのであれば、そう言ってください。あなたが、その権利をお持ちの方であり、私は、あなたの次なのですから 」と言った。
彼は
「 ええ、俺が買い戻ししよう 」と答えた。
続いて
ボアズ
が
「 ナオミさんから土地を買われる際には、財産と共に死者の名を保つために、亡くなった夫の妻であるモアブ人の ルツ という女性も引き取らなければなりません 」と言うと、
後見人は
「 それは出来んなぁ。そんな事したら、自分の土地を損なってしまう。あんたが買い戻してくれや。俺にはできんよ 」と答えたのである。
昔、イスラエルでは、資産の償還と譲渡を最終決着する際には、一方の人が自分のサンダルを脱いで相手方の人に渡した。これがイスラエルにおける正式な譲渡方法であった。
なので、その後見人は
ボアズ
に向って
「 あんたが自分で買っておくれ 」と言い、自分のサンダルを脱いだのであった。
ボアズ
は長老たちと みんなに言った。
「 今日、私が エリメレク氏・キルヨン氏・マフロン氏のすべての財産を ナオミさんから買い取った事、みなさんが証人です。また、その資産と共に、故人の名を維持するために、私は マフロン氏の妻であった モアブ人の ルツさんも引き受けて妻としました。それにより、彼の名前は、彼の一族や郷土から消えることはありません。今日、あなた方が証人です!」と。
門に居た長老や みんなは
「 私たちが証人です。どうか、主が、あなたの家に入る女性を、共にイスラエルの家を建てた ラケル(Rachel) や レア(Leah) のようにされますように。 →
創世記 29章
あなたがエフラタ族の中に立ち、ベツレヘムで名を揚げられますように。
どうか、主が、その若い女性によってあなたに賜わる子孫によって、あなたの家が タマル(Tamar) が ユダ(Judah) に産んだ ペレヅ(Perez) の家のようになりますように 」と言った。
こうして
ボアズ
は
ルツ
を娶り、彼女は妻となった。彼は彼女を愛したので、主は彼女をみごもらせられた。そして 1人の男の子を産んだ。
女たちは
ナオミ
に言った。
「 主をたたえましょう。主はあなたに後見人を付けて、見捨てられることはなかったですね。この子がイスラエル中で有名になりますように! 彼は、あなたの人生を新しくし、老後を支えてくれますよ。だって、あなたを愛し、7人の息子よりもよくしてくれる嫁が男の子を産んでくれたのですから 」と。
ナオミ
は、その子を手元に置いて育てた。近所の女たちは「ナオミさんに男の子ができたよ!」と言って、その子に
オベデ
(Obed)
という名前を付けた。
彼は
エッサイ
(Jesse)
の父であり、
エッサイ
が
ダビデ
(David)
の父である。
|
アイエツ『 ルツ 』1835
ボローニャ市庁舎
Francesco Hayez " Ruth "
|
ペレヅ
(Perez)
の家系は下記の通り。
ペレヅ
>
ヘヅロン
(Hezron)
>
ラム
(Ram)
>
アミナダブ
(Amminadab)
>
ナション
(Nahshon)
>
サルモン
(Salmon)
>
ボアズ
>
オベデ
>
エッサイ
>
ダビデ
→ 参考:
創世記 46章
[4章]