イサク
は年老い、目がかすんで見えなくなった。ある日、
エサウ
を呼んで言った。
「 わしも老い先短く、いつ死ぬやらわからん。狩りの道具を持って何か獲物を取ってきて、わしの好きな料理を作っておくれ。死ぬ前におまえを祝福しよう 」と。
それを聞いていた
レベッカ
は、
エサウ
が狩りに出ていくや、すぐさま
ヤコブ
を呼んで
「 ちょっと ちょっと、ヤコブ や。今すぐ群れのところに行って子ヤギを2頭取っておいで。それで美味しい料理を作るから、おまえはお父さんに食べさせなさい。お父さんがおまえを祝福してくれるよ 」と伝える。
ヤコブ
は、そうはいっても、自分の肌がツルツルであるので、父にバレてしまって、祝福どころか呪いを受けるのではないかと心配した。しかし、
レベッカ
は
「 おまえの呪いは 母さんが受けてあげるからいいんだよ。さっ、早く獲っておいで!」と言って
ヤコブ
に取りに行かせた。
レベッカ
はそれをもって
イサク
が好きな料理を作り、そして彼女が家にしまっておいたエサウ用の一番の服を
ヤコブ
に着せ、子ヤギの皮を手と首に巻き付けさせたのであった。
ヤコブ
は料理を持って
イサク
のもとへ行き、食事を勧める。
ヤコブ
が
「 エサウです。料理を用意しました。座って食べて、そして祝福してください 」
と言うと、
イサク
は
「 えらく早く獲れたな 」と、少し驚き、疑った。
ヤコブ
は
「 これも神さまの思し召しによるものです 」と答えた。
イサク
が
「 近くに来なさい。触ってみて エサウであることを確かめたい 」
と言って、子ヤギの皮で覆われた
ヤコブ
の手に触れた。
「 はて? 声は ヤコブ だが、手は エサウ だな 」と言いつつも、料理を食べ、ワインを飲み、そして
ヤコブ
にキスした。そして
ヤコブ
を祝福する。
ああ、わが子の香りは、主が祝福された野の香りのようだ。
どうか神が、天の露と、地の肥えた所と、多くの穀物と、
新しいワインとを そなたに賜わるように。
諸々の民はそなたに仕え、諸々の国はそなたに身を屈める。
そなたは兄弟たちの主となり、そなたの母の子らは、そなたに身を屈めるであろう。
そなたを呪う者は呪われ、そなたを祝福する者は祝福される。
そうして
ヤコブ
が祝福を受け終わって出て行ったところに、
エサウ
が狩りから帰ってくる。彼もまた料理を用意して
イサク
のもとに行き、
「 とうちゃん、うまい食いもん 用意したよ。さぁ、食べて、俺を祝福しておくれ 」と言うや、
イサク
は
「 おまえは誰だ?」と驚いて聞く。
「 俺だよ~。エサウだよ 」と答えるや、
イサク
は激しく震えて
「 さ、先ほど料理を持ってきたのは、だ、誰じゃ? わ わ、わしゃ、そいつを先に祝福してしもたぞ。今後、そやつが祝福を受けることになるのだ 」と言った。
エサウ
は怒り出す。
「 えぇっ! とーちゃん、そりゃないよー。俺を祝福してくれよ!」
イサク
は気づく。
「 さては、ヤコブ が偽って祝福を奪ったのだ 」と。そして
「 わしは、彼をおまえの主人とし、兄弟たちを皆しもべとして彼に与え、また穀物とワインを授けた。わが子よ、今となっては、おまえのために何もできぬ。。」と語った。
エサウ
は
「 祝福は1個しか無いの~? とーちゃん!」と泣きわめいた。
イサク
曰く、、
おまえの住みかは地の肥えた所から離れ、また上なる天の露から離れるであろう。
おまえは剣をもって世を渡り、弟に仕えることになるであろう。
しかし、それに耐えられなくなる時、おまえは彼の軛を自分の首から断ち切ってしまうであろう。
それからのち、
エサウ
は
ヤコブ
を憎んだ。
「 とうちゃんはもう長くない。そん時、あの野郎、殺したる 」と誓ったのであった。
このことを知った
レベッカ
は、
ヤコブ
にハラン[Harran]に居る
彼女の兄の
ラバン
(Laban)
のもとに逃れるよう指示する。
「 エサウの憤りがおさまったら、戻ってくるよう知らせるから 」と。
また、
レベッカ
は
イサク
に愚痴る。
「 私は、あのヘテ人の娘どもには耐えられません。もし、ヤコブ もヘテ人の娘を妻に娶ることになったら、私は、もう、とても生きてはおれませんわ(メソメソ)」
[27章]
イサク
は
ヤコブ
を呼んで
「 おまえはカナン[Canaan] の娘を妻に娶ってははならない。おまえの母の兄のラバンさんところの娘を妻に娶りなさい 」と命じ、ヤコブを送り出した。
ヤコブ
は
ラバン
のもとへ行く。
さて、
エサウ
はこの事を聞き、自分のカナンの妻たちが父の心に叶わないのを知るや、
アブラハム
(Abraham)
と
ハガル
(Hagar)
の子である
イシマエル
(Ishmael)
の所に行って、
彼の娘で
ネバヨテ
(Nebaioth)
の妹の
マハラテ
(Mahalath)
を妻に娶る。
ベエルシバを立ってハランへ向かった
ヤコブ
は、とある場所で日が暮れたので、そこの石を一つ取って枕にして寝ることにした。
その夜、彼は夢を見る。一つの梯子が地の上に立っていて、その頂は天に達し、神の使いたちがそれを昇り降りされておられる。
リベラ 『 ヤコブの夢 』 1639 プラド美術館
Ribera, Jusepe de, lo Spagnoletto "
Jacob’s Dream "
その上の方に立たれた神が言われた。
我はそなたの祖父アブラハムの神、イサクの神なり
そなたが臥して寝る所の地は、我、これを そなたと そなたの子孫に与えん
そなたの子孫は地の塵沙のごとくなりて、西東北南にはびこるべし
また、天下のもろもろの族、そなたと そなたの子孫を通じて祝福を得ん
また、我 そなたと共にありて、全てそなたが往むところにて そなたを守り、
そなたをこの地にひき返るべし
我は、我が そなたに約束し事を行うまで そなたを離れざるなり
と。
眠りから覚めた
ヤコブ
は
「 ひぇー、ここは神さまがおられる場所なんだ。気付かなんだ。まぎれもなく、ここは神の家であり、天の門なんだぁ!」と怖れ、枕にしていた石を記念碑として立て、この場所を ベテル[Bethel] と名付けた。そして、ここの主が自分の神になられるなら、得るものの 1/10 を捧げると誓いを立てたのであった。
[28章]
ヤコブ
は旅を続けて東方の地へ行った。見ると、野に一つの井戸があり、三つの羊の群れが集まっていた。聞けば、そこにいる人たちはハランの人たちだというので
「 ナホル(Nahor) さんの孫の ラバンさんを知ってますか?」と訊ねると、みんな知っていると答える。そして、もうすぐ彼の娘の
ラケル
(Rachel)
がやって来るよ、と言った。
そうこう話をする中で、
ヤコブ
が
「 まだ陽は高く、羊を集める時間ではないですよね。早く水を飲ませて放牧に戻らないのですか?」と不思議がって聞くと、彼らは
「 はぁ? みんなが集まってから井戸の口を開けるんだから、そりゃ出来ないよ 」と答えた。
しばらくして、
ラケル
が羊を連れてやって来た。
ヤコブ
は、すぐさま井戸の口の石を動かして羊たちに水を飲ませ、そして
ラケル
にキスして声をあげて泣いた。
ヤコブ
は、自分が
ラバン
の甥であることを告げると、
ラケル
は、そのことを父に伝えに走って帰った。それを聞いた
ラバン
は、すぐさま
ヤコブ
を迎えに行き、そして家に連れてきた。そこで、
ヤコブ
は、これまでのいきさつをすべて話したのであった。
フランチェスキーニ『 井戸端のヤコブとラケル 』1693-94 リヒテンシュタイン美術館
Marcantonio Franceschini
" Jacob and Rachel a the Well "
ひと月が過ぎて、
ラバン
が
ヤコブ
に聞いた。
「 身内とはいえ、タダ働きしてもらう訳にもいかんな。報酬は何が良いかね?」と。
ラバン
には2人の娘、姉の
レア
(Leah)
と妹の
ラケル
がいた。
レア
は目が細く、
ラケル
はお目めぱっちりで可愛い。なので、
ヤコブ
は
ラケル
の方が気に入った。
「 叔父さん、僕に ラケル さんをください。そのために7年仕えます! 」と宣言した。
ラバン
も
「 他の男にくれてやるよりは、それが全然良い。ここに居ておくれ 」と言って了承した。こうして
ヤコブ
は 7年間働いた。しかし、彼にとっては毎日が楽しく、あっという間の 7年だった。
約束の7年が過ぎ、
ヤコブ
が結婚の申し込みをすると、
ラバン
はみんなを集めて結婚式の宴を催してくれた。ところがである。その夜、
ラバン
が
ヤコブ
のもとに送り込んだのは、姉の
レア
の方であった。
朝になり明るくなって見るや、なんと、隣に寝ているのは
レア
ではないか!
ヤコブ
は
ラバン
に噛みつく。彼が言い訳するには、
「 ん~、ここらでは妹を姉より先に嫁がせる訳にはいかんでなぁ。式の間の1週間 我慢してくれや。そうしたら ラケルもあげよう。ただ、その代わり、さらに7年仕事してくれよ 」
ヤコブ
は言われる通りにし、1週間経って
ラケル
も妻として迎えた。そして、次の7年間も
ラバン
に仕えた。
ところが、神は
レア
が
ヤコブ
に愛されないのを憐れんで、
レア
に子供を授けられた。
ラケル
には子が出来ない一方で、
レア
は
ルベン
(Reuben)
,
シメオン
(Simeon)
,
レビ
(Levi)
,
ユダ
(Judah)
と4人の子宝に恵まれた。けれども
ヤコブ
が
レア
を愛することは無かったのである。
[29章]
子供ができない
ラケル
は
ヤコブ
に
「 お子をください。でなければ、私は死にます 」と訴える。しかし
ヤコブ
は
「 子が授かるのは神の御心である。俺にどう出来るっていうんだ!?」
と言って怒った。
ラケル
は仕方なく、自分の仕え女の
ビルハ
(Bilhah)
を夫に差し出し、自分に家族が出来ることを願った。そうして、
ビルハ
は2人の子供を産んだ。1人目を
ダン
(Dan)
、2人目を
ナフタリ
(Naphtali)
と名付けた。
一方、
レア
も自分の仕え女の
ジルパ
(Zilpah)
をヤコブに提供し、こちらも2人の子供、
ガド
(Gad)
と
アセル
(Asher)
を産む。
ある日、
レア
の子
ルベン
が麦刈りに出て、野でいくつかの「恋なすび(マンドレイク)
」を見付けてくる。媚薬の力を借りてまで子が欲しくて焦っていた
ラケル
は、
レア
に
「 ねぇ、お姉さん、その恋なすび、少しもらえない? 」とねだる。
レア
が
「 なに勝手な事ばかり言ってんのよ、あんた 」と断ると、
ラケル
は
「 なら、今夜、あの人を姉さんのところへ行かせるから。お願い!」と「恋なすび」に掛けたのであった。
その日の夕方、放牧から帰って来た
ヤコブ
を迎えた
レア
は
「 今夜は私と寝るのよ。「恋なすび」と交換に、あなた お借りすることになったの 」と言った。
かくして、
レア
には、またまた次の子が出来てしまう。その名は
イッサカル
(Issachar)
。その後も、さらに、
ゼブルン
(Zebulun)
と女の子の
デナ
(Dinah)
を産むのであった。
こうして、神はようやく
ラケル
のことを気遣いされ、子をお授けになる。
「自分の恥が雪がれた」と彼女は安堵した。
生まれきた男の子は
ヨセフ
(Joseph)
と名付けられた。
ヨセフ
が生まれると、
ヤコブ
は「妻子と共に国元に帰りたい」と
ラバン
に申し出た。しかし、彼は渋る。
「 君に神が付いておられるので、うちも儲かると占いに出てな、ずっと居てくれんかい? 払うものは払うからさ 」と。
ヤコブ
は
「 僕が来る前、家畜はちょっとしかいませんでした。でも、今や、相当増えたじゃないですか。いつになったら、僕は自分の家を持てるようになるのですか!」と言った。
「 まぁ、まぁ。じゃぁ、何をあげれば良いかね? 」と
ラバン
が言うと、これに対して、
ヤコブ
は一つだけ条件を提示する。それは、
「 群れの中から、ぶちとまだらの羊・黒い子羊・まだらとぶちのヤギだけをください。それが報酬です 」というものであった。
ラバン
は
「 よかろう。言う通りにしてくれ 」と了承するも、すぐさま、縞模様とまだらの雄ヤギ、ぶちとまだらの(すべて白みをおびている)雌ヤギ、黒い子羊をすべて移して自分の子たちに渡し、
ヤコブ
から数十キロ離れた場所に移動させて分離したのであった。
仕方なく、
ヤコブ
は残りの群れを飼い続けることになった。
しかし、ここから、ヤコブ・マジックが始まる。
彼はポプラとアーモンドとプラタナスの若木の枝を取ってきて皮を剥いで、それに白いストライプ作り、枝の白い部分を現れるようにした。そして、その枝を群れの家畜たちが飲む全ての水槽と水鉢の中に立てて、家畜たちの目の前に見えるようにした。そうして家畜たちが水を飲みにやって来た時にさかりがついて、縞・ぶち・まだらの子たちがたくさん産まれるようにしたのである。
ヤコブ
は、こうして生まれた若い群れを分けておいて、
ラバン
の残りの群れを、自分のその縞や黒の家畜たちと向き合わせさせることによって、自分の群れと
ラバン
の群れとが混じらないようにした。
また、群れの中の強い雌がさかり付く際には
ヤコブ
は、先の枝を同様に水槽の中に立てて家畜たちの前に置いて交配させるも、弱いものの群れの時には枝を置かなかった。
こうして
ラバン
の家畜は弱いものばかりに、
ヤコブ
の家畜は強いものだけになっていって、彼は大いに富んだのであった。
[30章]
ヤコブ
は
ラバン
の子たちが
「ヤコブはずるいぞ。我らの父の物を奪って富を得た」と非難していることを耳にする。また、
ラバン
自身の態度も、もう昔の彼ではなくなっていることに気づく。
神は
そなたの父の国に帰り、そなたの親族に至れ。我、そなたと共に居らん
と言われる。
ヤコブ
は
ラケル
と
レア
とを野に呼んで言った。
「 お義父さんの態度は、もう昔の彼では無くなったよ。知っての通り、俺はおまえたちの父さんのために働き続けてきたというのに、もう 10回も報酬を変更された。お義父さんが『 ぶちが君の報酬だ 』と言えば、群れはぶちばかり産み、今度は『 縞が君のだ 』と言うと、縞の家畜ばかりが生まれた。つまりは、神さまがお義父さんの家畜を取り上げて俺に与えられたのさ。
さかりの季節に、俺は夢の中で目を上げると、交配している雄ヤギは全部、縞か、ぶちか、まだらのものばかりだった。その時、夢の中で神さまの使いが言われたのだ。
我、ラバンが 全てそなたに為すところを 鏡見る
我はベテルの神なり。そなた そこにて柱に油を注ぎ、そこにて我に誓いを立てたり
今起ちてこの地を出で、そなたの親族の国に帰れ
と 」。
ラケル
と
レア
も同意して
「 父の財産から相続できるものが何か残ってまして? 私たちを、もう、よそ者のようにしか見てないわ。確かに、神さまが父から取りあげられた全ての富は、皆、私たちと私たちの子供のものでしょ。だから、何事も神さまがお告げになられた通りになさってください 」と言った。
そこで
ヤコブ
は子供らと妻たちをラクダに乗せ、
ラバン
に何も告げることなく、すべての家畜、すべての財産を携えて、カナンの地に居る父
イサク
のもとへと出発したのである。その際に
ラケル
は一家のご神体を持ち出してしまった。
ラバン
は3日後になって
ヤコブ
の逃げ去ったことを知り、急いで一族を率いて、その後を追い、7日目にギレアデ[Gilead] の山地で追い着いた。しかし 神は
ラバン
の夢に現れられ
そなた、慎みて、善も悪も、ヤコブに道なかれ
(良し悪しを言ってはいけない)
と言われたのである。
ラバン
は
ヤコブ
を責める。
「 一体全体、どういう料簡だ? 騙して娘たちを戦の捕虜のように連れ去るなんて。言ってくれれば、心地よく送り出してあげるつもりだったのに。孫や娘たちに別れのキスもできないじゃないか。愚かなことをしたもんだ。力ずくで引き返させることもできるが、昨夜、神に
そなた、慎みて、善も悪も、ヤコブに道なかれ
と言われてしもうた。まぁ、家に帰りたいんだろうが、だとしても、どうして、うちのご神体まで持ち出すんだね?」と。
ヤコブ
は
「 きっと力ずくで許してもらえないと思ったのです。しかし、叔父さんのご神体を持つ者がいたら生かしておけません。どうぞ、全員をお調べください 」と言った。
ヤコブ
は
ラケル
が盗んでいたことを知らなかったのである。
ラバン
は
ヤコブ
の天幕に入り、次に
レア
の天幕にも、また、仕え女のそれにも入って調べたが、ご神体は見つからなかった。次に
ラケル
の天幕に入ったが、
ラケル
はそれを既にラクダの鞍の下に入れておいて、そして鞍の上に座っていた。
「 お父さま、お怒りにならないで。私は月のものがあって、お腹が痛くて立ち上がれません 」とごまかしたのであった。なので、ここでも ご神体は見つからなかった。
これをもって
ヤコブ
は怒って責める。
「 僕にどんな罪があって、叔父さんは私の後を追ったのですか! あなたが疑ったご神体とやらはどこにも無いじゃないですか! それを出して双方を裁いてもらいましょう。
僕は、この20年間、叔父さんのために働き詰めでした。
その間、あなたは 10回も報酬を変えられましたね。もし、父なる神たちが僕と共におられなかったなら、あなたは間違いなく、僕を無一文で去らせたことでしょう。神さまは私の悩みと労苦とを顧みられて、昨夜、叔父さんを戒められたんですよ 」
ラバン
は涙ながらに
ヤコブ
に言う。
「 娘たちはわしの娘じゃ、子供たちもわしの孫じゃ。それに群れたちも、わしの群れ。君の見るものは、み~~んな、わしのもんじゃろお~。
娘たちのため、また彼女らが産んだ孫たちのために、今日、わしは彼女らのために 何をしてあげられるのじゃぁ。おいおい 」
ここに
ラバン
と
ヤコブ
は石を立てて柱とした。この石塚もって両者間の相互不可侵の契約の証としたのである。そして、互いに神に誓った。
「 もし、君がわしの娘を苛めたり、他に妻を娶るようなことがあれば、神さまは見ておられるからの 」と、
ラバン
は最後の釘を刺した。
彼らは山の上で生贄を捧げ、共に食事をした。
[31章]
翌朝早く、
ラバン
は孫と娘らにキスし、彼女らを祝福して、家に帰っていった。
ヤコブ
は帰路を進め、そして、セイル[Seir] の地、エドム[Edom] の野に住む兄
エサウ
のもとに先立って使者を遣わし、多くの献上物を持って向かっていることを伝えさせた。ところが、使者が戻ると
エサウ
も 400人を連れて、こちらに向かっていると言う。
これに
ヤコブ
はとても恐れた。それで一行を二手に分け、もし、一方が
エサウ
に襲われても、もう一方が逃れられるようにした。そして
エサウ
の手から救われるようにと、神に祈った。
そうして、彼は
エサウ
への贈り物として、雌ヤギ 200,雄ヤギ 20,雌羊 200,雄羊 20,乳ラクダ 30とその子,雌牛 40,雄牛 10,雌ろば 20,雄ろば 10 を選出する。それらをいくつかの群れに分け、そして、群れごとに間隔を空けて
ヤコブ
より先に進めさせた。
彼は先頭の者に、
エサウ
と遭遇したら、
「『これらは、あなたのしもべである ヤコブ の物で、我が主:エサウ様にお贈りする品々です。彼も私たちの後ろにおります』と言いなさい 」と指示する。第2弾の者にも、第3弾の者にも、そう指示した。
彼は、先に献上物を
エサウ
に見せて懐柔した上で、対面しようと考えたわけである。
こうして、贈り物を先に送り出し、夜に家族たちに川を渡らせて、そして
ヤコブ
は一人、後に残った。
と、その時、夜の暗闇の中で何者かが彼に取っ組みかかってきた。
強い。互いに譲らず勝敗が付かない。その相手は
ヤコブ
の股関節を強く押して脱臼させた。相当に痛いはずだが、
ヤコブ
は、それでも格闘を続けた。
東の空が白みだしてきて、
「 もう、夜が明ける。離しておくれ 」と言われるも、
ヤコブ
は
「 祝福してくれないんなら、ダメだ 」と言って離さなかった。その者が
「 名は?」
と聞くので、
「 おれ、ヤコブだ 」と答えた。
そうすると、その方は
そなたの名は重ねてヤコブと唱うべからず。イスラエル(Israel) と唱うべし
それは、そなた、神と人とに力を争いて勝たればなり
と言われる。
ヤコブ
が
「 あなたの名を教えてください 」と頼むと、その方は
なぜに我が名を問うや?
と言われて、その場で
ヤコブ
を祝福した。なんと、格闘したお方は天使であったのである。
ヤコブ
は
「 ひぇ~、神さまと顔突き合せたっていうのに、俺、まだ生きてるぜ!」
と感動した。
夜が明け、
ヤコブ
は びっこをひきながら、
エサウ
に向かって歩いていった。
[32章]
さて、進行していくと
エサウ
が 400人を率いてやって来るのを見付ける。そこで
ヤコブ
は、先頭に仕え女とその子供たちを、次に
レア
とその子供たちを置き、そして
ラケル
と
ヨセフ
を後ろに置いて、7たび身を地にかがめて兄に近づいて行った。
すると
エサウ
は走ってきて迎え、彼を抱き、キスをした。そして共に泣いた。
エサウ
が近くにいる女性や子供たちを見て、
「 この人たちは?」
と聞くと、
ヤコブ
が
「 この子たちは、しもべの私に神が授けられた子供たちです 」と言った。彼女らは、皆、
エサウ
にお辞儀をした。
「 途中で会った群れは、ありゃ、何だい?」
と
エサウ
が聞くと、
「 兄上の好意を得るためです 」
と
ヤコブ
は答えた。
「 俺、たくさんあるから、お前、持ってなよ 」
と
エサウ
が言うも、
ヤコブ
は
「 いえ、どうか、この品々をお受け取りください。私をこのように迎えていただき、神さまの御尊顔を拝しているような気持ちです 」と、どうしてもと言うので、彼は受け取った。
エサウ
は言った。
「 さあ、一緒に行こう。俺が先導するから 」と。
しかし、
ヤコブ
は、さらに用心を取ったか、家畜たちが疲れているからと言って、1日空けて
エサウ
が帰った後に、カナンの地へと向かったのである。
そうして、無事、カナンの地着き、とある町の前に宿営した。彼は天幕を張った野の一部を地元の人から買い取り、そこに祭壇を建てた。
[33章]
ところが、ここで事件が起きる。
ヤコブ
と
レア
の間の末娘
デナ
は、町の女性たちに会おうと出かけたところ、その地の司:ヒビ人[Hivite] の
ハモル
(Hamor)
の子
シケム
(Shechem)
が、外から来た かわい子ちゃんに一目惚れか、無理矢理 連れ込んで強姦してしまったのである。
シケム
は父
ハモル
に
「この娘を妻にもらわせてください」と願うので、
ハモル
は
ヤコブ
のところにお願いにやって来た。
ヤコブ
の子らは、自分たちの可愛い可愛い末の妹がレイプされたことを知り怒り狂う。
ハモル
が
「 同族となって仲良くしましょう 」と言うも、彼らは
「 そうは言うても、割礼もしておらんもんに 妹をやる訳にはいかん 」と答えた。
これに対して、
シケム
らの若者たちは躊躇なく、その条件に従って実行したのである。
3日後、彼らが股間を押さえて、ひぃひぃ~唸っている時、
シメオン
と
レビ
は剣を持って町を襲うや、男子をことごとく殺して
デナ
を救い出した。そして町の財産を全て強奪してきたのである。
危惧した
ヤコブ
は、
シメオン
と
レビ
に
「 この地のカナン人[Canaanites] とペリジ人[Perizzites] に恨まれることをした。彼らが集まって攻めてきたら、我らは滅ぼされてしまうではないか!」と叱った。
しかし、彼らは
「 デナちゃんが、あいつに娼婦のように扱われて、それで耐えられるのですか?」と開き直ったのであった。
[34章]
ときに神が
ヤコブ
に言われた。
起きてベテルに登りて そこに居り、そなたが昔、兄 エサウ の面を避けて逃る時に、
そなたに現れし神に、そこにて壇を築け
と。
ヤコブ
家族の全員に言った。
「 持っている異教の神を棄て、身を清めて着物を着換えなさい。そして、ベテルへ登ろう。そこで、私が苦難の時に私に応え、また、私の行く先々で共に居られた神のために祭壇を築こう 」と。
それで家族のみんなは、持っている異教の神々と、耳につけている耳輪を
ヤコブ
に提出したので、それらを彼は木の下に埋めた。
こうして、彼らは出立したが、周囲の町の人々は神の恐れを感じたので、誰も彼らの後を追ってこなかった。
ヤコブ
たち全員は、カナンの地にあるベテルに来た。彼はそこに祭壇を築いたのである。
レベッカ
の乳母:
デボラ
(Deborah)
が死し、ベテル郊外の樫の木の下に葬られた。
さて、
ヤコブ
がパダンアラム[Paddan Aram]から帰ってきた時、神は再び現れて彼を祝福された。
そなたの名は重ねて ヤコブ と呼ぶべからず。イスラエルを汝の名と成すべし
我は全能の神なり。生めよ、殖せよ
一つの国および多くの国、そなたより出で、また、王ら、そなたの腰より出でん
我が アブラハム および イサク に与えし地は、我、これをそなたに与えん
我、そなたの後の子孫に、その地を与うべし
神は彼と語っておられたその場所から、彼を離れて昇っていかれた。
ヤコブ
は神が自分に語られたその場所に、一本の石の柱を立て、その上に灌祭をささげ、また油を注いだ。
こうして彼らはベテルを立ったが、エフラタ[Ephrath] に行き着くまでには、まだ道のりがある所で
ラケル
は産気づき、そのお産は重かった。彼女は死に臨み、息の消えかからんとする時、子の名を ベノニ(Ben-Oni) と呼んだ
。
しかし、
イスラエル(ヤコブ)
は、これを
ベニヤミン
(Benjamin) と名付けた。
ラケル
はベツレヘム[Bethlehem] に葬られた。
イスラエル(ヤコブ)
は、また出立してミグダル・エダル[Migdal Eder] の向こうに天幕を張った。そこの滞在中に、
ルベン
が
イスラエル(ヤコブ)
の内妻である
ビルハ
と懇ろな関係になってしまった。
さて、
イスラエル(ヤコブ)
の子は 12人である。
・
レア
との子: ルベン
,シメオン
,レビ
,ユダ
,イッサカル
,ゼブルン
・
ラケル
との子: ヨセフ
,ベニヤミン
・ ラケルの仕え女
ビルハ
との子: ダン
,ナフタリ
・ レアの仕え女
ジルパ
との子: ガド
,アセル
イスラエル(ヤコブ)
は父
イサク
のもとへ向かった。
イサク
は年老い、日満ちて息絶え、死した。
エサウ
と
ヤコブ
とは、これを葬った。
[35章]
エサウ
と
イスラエル(ヤコブ)
の財産は双方合わせて多過ぎたため、
エサウ
は一族を連れて別の土地のセイルの山地へと移っていった。
[36章]
イスラエル(ヤコブ)
は父の寄留の地、すなわちカナンの地に住んだ。
ヨセフ
は嗣子であり、
イスラエル(ヤコブ)
にとっては年寄り子であったので、他のどの子よりも彼を愛したため、兄たちは彼を憎んだ。
また、
ヨセフ
は不思議な夢を見る子であった。兄たちに「みんなが僕に かしずいていたよ」的な夢の話をするので、兄たちはさらに気分が悪かった。
ある日、兄弟たちがシケムに行って羊の群れを飼っていた時、
イスラエル(ヤコブ)
は
ヨセフ
に彼らの様子を見てくるように指示する。
ヨセフ
がやって来るのを見た兄たちは、
「 おい、あの夢見の奴がやって来てるぞ。ここならわからない。彼を殺してしまおう 」と言う。長男の
ルベンがこれを制止するも、彼らはヨセフの長袖の着物をはぎとり、穴に投げ入れた。
と、そこにイシマエル人の隊商がエジプトへ行こうとしているところであった。彼らは
ヨセフ
を穴から引き上げ、銀20シケルで、その隊商に売り飛ばしてしまったのである。
さて、
ルベン
が戻って穴の中を見ると
ヨセフ
が居ない。彼らは雄やぎを殺して、
ヨセフ
の長袖の着物を、その血に浸し、それを父に持ち帰った。
「 僕たちがこれを見付けたのですが、これはヨセフの服でしょうか?」と聞くと、
イスラエル(ヤコブ)
は、これを見定め
「 えぇえっつ! これは、まさしくヨセフの服だ! 悪い獣にかみ裂かれたのだ!」と、ひどく嘆き悲しんだ。周りの者たちが慰めようとするも、
「 わしは嘆きながら陰府に下って ヨセフのもとへ行きたい 」と泣き続けたのであった。
[37章]
年月が過ぎ、ある年、カナンの地に飢饉が襲った。
イスラエル(ヤコブ)
は子供たちに
「 エジプトには穀物があるそうだ。おまえたち、そこへ行って穀物を買ってきなさい 」
と指示する。しかし、彼は末弟の
ベニヤミン
を兄弟たちと一緒にやらなかった。彼が災に会うのを恐れたからである。
彼らはエジプトに入り、穀物を売る高官の司に会うと、その人は、彼らを
「 お前らは外国から来た、国を伺う回し者だろう 」と疑った。
彼らは「自分たちが穀物を買いに来た篤実な者たちであること。12人兄弟で、1人は死んだが、末弟と父は、今、カナンの地に居る」ことを伝えた。
しかし、その司は「中の1人
シメオン
をここに残し、穀物を持って帰る事。そして末弟を連れて再訪したら、お前らが怪しい者たちではないと認めてやろう」と言った。
こうして彼らは
イスラエル(ヤコブ)
のもとに戻り、その身に起った事を事細かく伝えた。
話を聞いた
イスラエル(ヤコブ)
は不思議に思ったが、
「 ヨセフがいなくなり、シメオンもいなくなった。今度は ベニヤミンをも取り去るのか?」と言って、
ベニヤミン
を連れていくことは許さなかった。
ルベン
が行かせてほしいと頼んだが、彼は頭を縦に振らなかった。
[42章]
飢饉はさらに続き、厳しくなった。彼らがエジプトから携えてきた穀物は食べ尽してしまい、
イスラエル(ヤコブ)
は再度、彼らに言った。
「 またエジプトに行って、少しの食糧を買ってきなさい 」と。
しかし、
ユダ
は
「 あの方は我々を厳しく戒めて、末弟が一緒でなければ会ってやらないと言われました。ベニヤミンを一緒にやってくださるなら、我々は行ってきます 」と答えた。
これに
イスラエル(ヤコブ)
は、やむなく了承する。そして、数多くの高価な贈り物を用意させた上で、
「 どうか全能の神が、その人の前で この者たちを哀れみ、もう一人の兄弟と ベニヤミンとを返させてくださいますように。私はといいますと、もし 私が遺族になるのだとしたら、もう、その通りの絶望の心持ちであります 」と祈った。
こうして、彼らは
ベニヤミン
を連れてエジプトへ向かって行った。
[43章]
そうして、しばらくのち、彼らが戻ってくるや、彼らは父のもとへ駆け寄り、
「 父上、ヨセフが生きています! エジプト全土の統治者なのです!」と言った。
イスラエル(ヤコブ)
は、彼らの言うことが信じられず、気が遠くなった。しかし、
ヨセフ
が彼らに言ったことを全て聞き、
イスラエル(ヤコブ)
をエジプトに迎えるために送って来た車を見るや、彼は気を取り戻した。
「 よし! ヨセフは生きておったか。そうか、わしは死ぬ前に行って彼に会おうぞ 」
[45章]
イスラエル(ヤコブ)
旅立ち、ベエルシバに寄って、父イサクの神に犠牲をささげた。
その夜、神は
イスラエル(ヤコブ)
に語って言われた。
エジプトに下ることをはばかる無かれ
我、そこに、そなたを大なる国民と成さん
我、そなたと共にエジプトに下るべし
また、必ず、そなたを導き上がるべし
ヨセフ、手をそなたの目の上におかん
こうして
イスラエル(ヤコブ)
はベエルシバを立った。
イスラエル(ヤコブ)
の子らは
イスラエル(ヤコブ)
を乗せるためにエジプト王が送った車に、
イスラエル(ヤコブ)
と幼な子たちと妻たちを乗せ、また、その家畜とカナンの地で得た財産を携えて、その子孫を含めた全員でエジプトへと向かった。彼の子と孫たちは次の通り。子供たちの妻を除いて、総勢 66人。
レア
との間にできた子とその孫たち 33人:
・
ルベン
の子:
ハノク
(Hanok),パル
(Pallu),ヘヅロン
(Hezron),カルミ
(Karmi)
・シメオン
の子:
エムエル
(Jemuel),ヤミン
(Jamin),オハデ
(Ohad),ヤキン
(Jakin),
ゾハル
(Zohar),シャウル
(Shaul)(カナン人女性の子)
・レビ
の子:
ゲルション
(Gershon),コハテ
(Kohath),メラリ
(Merari)
・ユダ
の子:
エル
(Er),オナン
(Onan)(両者はカナンで死去)
,シラ
(Shelah),
ペレヅ
(Perez),ゼラ
(Zerah)
- ペレヅ
の子:
ヘヅロン
(Hezron),ハムル
(Hamul)
・イッサカル
の子:
トラ
(Tola),プワ
(Puah),ヨブ
(Jashub),シムロン
(Shimron)
・ゼブルン
の子:
セレデ
(Sered),エロン
(Elon),ヤリエル
(Jahleel)
・デナ
ジルパ
(レアの仕え女)
との間にできた子とその孫たち 16人:
・ガド
の子:
ゼポン
(Zephon),ハギ
(Haggi),シュニ
(Shuni),エヅボン
(Ezbon),
エリ
(Eri),アロデ
(Arodi),アレリ
(Areli)
・アセル
の子:
エムナ
(Imnah),イシワ
(Ishvah),イスイ
(Ishvi),ベリア(Beriah)
,
サラ
(Serah)
- ベリア
の子:
ヘベル
(Heber),マルキエル
(Malkiel)
ラケル
との間にできた子とその孫たち 14人:
・ヨセフ
の子:
マナセ
(Manasseh),エフライム
(Ephraim)
・ベニヤミン
の子:
ベラ
(Bela),ベケル
(Beker),アシベル
(Ashbel),ゲラ
(Gera),
ナアマン
(Naaman),エヒ
(Ehi),ロシ
(Rosh),ムッピム
(Muppim),
ホパム
(Huppim),アルデ
(Ard)
ビルハ
(ラケルの仕え女)
との間にできた子とその孫たち 7人:
・ダン
の子:
ホシム
(Hushim)
・ナフタリ
の子:
ヤジエル
(Jahziel),グニ
(Guni),エゼル
(Jezer),シレム
(Shillem)
さて、
イスラエル(ヤコブ)
は
ユダ
を先に
ヨセフ
に遣わして「ゴセンで会おう」と伝えた。
ヨセフ
は車を整えて、父を迎えるためにゴセンに上った。
数十年ぶりに再会した 2人は抱き合って久しく泣いた。
時に
イスラエル(ヤコブ)
が
ヨセフ
に言った。
「 おまえが生きていて、こんなに嬉しいことはない。おまえの顔を見れたので、わしは、もう、今、死んでもよいわ 」
[46章]
ヨセフ
はエジプト王に掛け合って、兄弟たちがエジプトの地に住めるよう許可を得た。
その後で、
ヨセフ
は
イスラエル(ヤコブ)
を連れてエジプト王に挨拶させた。
エジプト王が
「 お歳はいくつか?」と聞くと、
イスラエル(ヤコブ)
は、
「 私の人生の行脚は 130年になります。その年月は短く、重荷を背負うて歩くようなものでありました。しかし、先祖たちの行脚には及びませぬ 」と答えたのであった。
ヨセフ
はエジプト王が命じたように、父と兄弟たちとの住まいを定め、エジプトの中で最も良い地:ラメセスの地を所有として与えた。また
ヨセフ
は父と兄弟たちと父の全家とに、家族の数にしたがい、食物を与えて養った。
さて、こうして
イスラエル(ヤコブ)
はエジプトに移り住み、そこでしばらく生きた。
死期が近づいた彼は
ヨセフ
を呼んで言った。
「 わしも、そろそろ、ご先祖さまの所へまいる。最後に一つだけお願いがあっての、どうか、わしを、この地では無く、ご先祖さまたちの墓に葬ってもらえんか?」と。
ヨセフ
は、その通りにすると言い、誓った。
[47章]
こうした事の後に、
「 父上さまは、いよいよ危ない状況にあります 」と
ヨセフ
に告げる者があったので、彼は2人の子、
マナセ
と
エフライム
とを連れて行った。3人が訪れると、
イスラエル(ヤコブ)
は無理して起き上がり、ベッドの上に座った。
そして、
ヨセフ
に話を始めた。
「 昔、カナンの地ルズで、全能の神が現れられてな、わしを祝福して言われたのじゃ。
我、そなたをして多く子を得せしめ、そなたを増やし、そなたを衆多の民となさん
我、この地をそなたの後の子孫に与えて、永久の所有となさしめん
とな。なので、わしが、このエジプトに来る前に生まれておった エフライム と マナセ は、今、わしの相続の対象としよう。ルベン や シメオン と同様にな。その後に生まれる子は、おまえの子じゃ。その子らには、エフライム や マナセ が受け取るテリトリの中から分けてあげれば良いであろう。
わしらがパダンから帰って来る途中、カナンの地で、おまえの母親の ラケルに死なれてのぉ、あれは辛かった。そこはエフラタに行くまでには、まだ遠く、仕方なくベツレヘムへ行く道のかたわらに彼女を葬ったのじゃ 」
イスラエル(ヤコブ)
は
ヨセフ
の子らを見て
「 この子らは誰かね?」と聞いた。
ヨセフ
は
「 神がここで私にくださった子供たちです 」と答えた。父は
「 おぉ、そうか。彼らを わしの所に連れてきて、祝福させておくれ 」と言った。
イスラエル(ヤコブ)
の目は老齢のゆえに、かすんで見えなかったが、
ヨセフ
が彼らを父の所に近寄らせたので、父は彼らにキスし、彼らを抱いた。そして
イスラエル(ヤコブ)
は
ヨセフ
に言った。
「 もう、おまえの顔は二度と見られないと思っていたのに、神は 孫たちまでも わしに見させてくださった 」
そこで
ヨセフ
は彼らを
イスラエル(ヤコブ)
の膝から降ろして、地に伏して拝した。
ヨセフ
は左手で 兄
マナセ
の手を取り、右手で 弟
エフライム
の手に取って、
マナセ
を
イスラエル(ヤコブ)
の右手側へ、
エフライム
を左手側へ向かわせて近寄らせた。
すると
イスラエル(ヤコブ)
は自らの腕をクロスして、右手を 弟
エフライム
の頭の上に、左手を
マナセ
の頭の上にと置いた。そして
ヨセフ
を祝福して言った。
吾が先祖アブラハムとイサクの仕えた神、
生れてから今日まで 吾を養われた神、
すべての災いから 吾をあがなわれた御使いよ、
この子供たちに祝福をお与えください。
また、吾が名と先祖アブラハムとイサクの名とが、
彼らによって唱えられますように。
また、彼らが地の上に増え広がりますように。
ヨセフ
は、父の右手が
エフライム
の頭に置いてあるのを変だと思い、父の手を取り、
「 父よ、そうではありません。こちらが長子です。その頭に右の手を置いてください 」
と言って
エフライム
の頭から
マナセ
の頭へ移そうとした。
ところが、父は拒んで言った。
「 判っとる、ヨセフよ。わしゃ解っとる。彼もまた一つの民となり、また大いなる者となるであろう。しかし、弟は彼よりも、もっと大いなる者となり、その子孫は多くの国民となるであろう 」
こうして彼はこの日、彼らを祝福して言った。
「 あなたを指して、イスラエルは、人を祝福して言うであろう。
神があなたをエフライムのごとく、またマナセのごとくにせられるように
」と。
このように、彼は
エフライム
を
マナセ
の先に立てた。
イスラエル(ヤコブ)
は、また、
ヨセフ
に言った。
「 わしはやがて死ぬ。しかし、神は常に おまえたちと共におられる。きっと、おまえたちを先祖の国に導き帰らせてくださるであろう。
ヨセフや、おまえには他の兄たちよりも多くを与えねばならんの。そうだ、わしが剣と弓とを持ってアモリ人から勝ち取った、あの山の斜面を贈ろう 」
[48章]
イスラエル(ヤコブ)
は自分の子らを呼んで言った。
「 みな、集まってくれ。後日、おまえたちの身の上に起ることを告げておきたい。
ヤコブの子らよ、集まって聞け。父イスラエルの言葉を聞け。
ルベン
よ、そなたは吾が長子、吾が勢い、吾が力の始め。威光のすぐれた者、権力の優れた者。
しかし、沸き立つ水のようだから、もはや優れた者ではあり得ない。
そなたは父の床に上って汚した。あぁ、そなたは吾が寝床に上った。
シメオン
と
レビ
とは兄弟。彼らの剣は暴虐の武器。
わが魂よ、彼らの会議に臨むな。わが栄えよ、彼らの集いに連なるな。
彼らは怒りに任せて人を殺し、欲しいままに雄牛の足の筋を切った。
彼らの怒りは、激しいゆえに呪われ、彼らの憤りは、甚だしいゆえに呪われる。
私は彼らを ヤコブ のうちに分け、イスラエルのうちに散らそう。
ユダ
よ、兄弟たちはあなたをほめる。あなたの手は敵のくびを押え、父の子らはあなたの前に身をかがめるであろう。
ユダは獅子の子。吾が子よ、あなたは獲物をもって上って来る。
彼は雄獅子のようにうずくまり、雌獅子のように身を伏せる。だれがこれを起すことができよう。
杖はユダを離れず、立法者の杖はその足の間を離れることなく、シロの来る時までに及ぶであろう。もろもろの民は彼に従う。
彼は、その ろばの子を葡萄の木につなぎ、その雌ろばの子を良き葡萄の木につなぐ。
彼はその衣服を葡萄酒で洗い、その着物を葡萄の汁で洗うであろう。
その目は葡萄酒によって赤く、その歯は乳によって白い。
ゼブルン
は海べに住み、舟の泊まる港となって、その境はシドンに及ぶであろう。
イッサカル
は、たくましい ろば。彼は羊のおりの間に伏している。
彼は定住の地を見て良しとし、その国を見て楽しとした。彼はその肩を下げて担い、奴隷となって追い使われる。
ダン
はおのれの民をさばくであろう、イスラエルのほかの部族のように。
ダン は道のかたわらの蛇、道のほとりの蝮。馬のかかとを咬んで、乗る者を後ろに落すであろう。
主よ、私はあなたの救いを待ち望む。
ガド
には略奪者が迫る。しかし、彼はかえって敵のかかとに迫るであろう。
アセル
はその食物が豊かで、王の美味をいだすであろう。
ナフタリ
は放たれた雌鹿、彼は美しい子鹿を生むであろう。
ヨセフ
は実を結ぶ若木、泉のほとりの実を結ぶ若木。その枝は垣根を越えるであろう。
射る者は彼を激しく攻め、彼を射、彼をいたく悩ました。
しかし彼の弓はなお強く、彼の腕は素早い。これはヤコブの全能者の手により、イスラエルの岩なる牧者の名により、おまえを助ける父の神により、また上なる天の祝福、下に横たわる淵の祝福、乳房と胎の祝福を以て、おまえを恵まれる全能者による。
おまえの父の祝福は永遠の山の祝福に勝り、永久の丘の賜物に勝る。これらの祝福はヨセフのかしらに帰し、その兄弟たちの君たる者の頭の頂に帰する。
ベニヤミン はかき裂くおおかみ。朝にその獲物を食らい、夕にその分捕物を分けるであろう 」
全て、これらはイスラエルの 12の部族である。そしてこれは彼らの父が彼らに語り、彼らを祝福したもので、彼は祝福すべきところに従って、彼ら 各々を祝福した。
彼はまた彼らに命じて言った、
「 わしは、今まさに、吾が民に加えられようとしておる。おまえたちはヘテ人のエフロン(Ephron) さんの畑にあるほら穴に、わしの先祖たちと共にわしを葬ってくれ。そのほら穴はカナンの地のマムレ[Mamre] の近くにあるマクペラ[Machpelah] の畑にある。アブラハムがヘテ人のエフロンさんから畑と共に買い取り、所有の墓地としたものだ。そこにアブラハムと妻サラとが葬られている。イサクと妻レベッカもそこに葬られた。わしはまた、そこにレアを葬った 」
こうして
イスラエル(ヤコブ)
は子供らに命じ終って、足を床におさめ、息絶えた。
[49章]
ヨセフ
は父の顔に伏して泣いた。
そして彼は医者たちに、父の亡骸に防腐剤の薬を塗るよう命じた。
ヨセフ
は
イスラエル(ヤコブ)
が「先祖たちが眠る墓に葬ること」という遺言を残したため、「これからカナンの地まで埋葬に行かせてほしい」と、エジプト王に頼んだ。彼はこれを了承した。
ヨセフ
と共に出発した葬送には、エジプト王の家来たちや長老たち、エジプトの国の諸々の長老たち、さらには、戦車や騎兵も共に参列したので、相当な数になった。
こうして、
イスラエル(ヤコブ)
の亡骸はカナンの地へ運ばれ、
ヨセフ
らによってマクペラの畑のほら穴に葬られた。
[50章]