今度、因幡国 取鳥一郡の男女、ことごとく城中へ逃げ入り、立て籠り侯。下々、百姓以下、長陣の覚悟なく侯の間、即時に餓死に及ぶ。
初めのほどは、5日に一度、3日に一度、鐘をつき、鐘次第、雑兵ことごとく柵際まで罷り出で、木草の葉を取り、中にも稲株を上々の食物とし、後にはこれも事尽き侯て、牛馬を食らい、霜露に打たれ、弱き者 餓死、際限無し。餓鬼の如く痩衰えたる男女、柵際へ寄り、もだえ焦がれ、「引き出だし助け侯へ!」と叫び、叫喚の悲しみ、哀れなる有様、目も当てられず。
鉄砲を以て打ち倒し侯へば、片息したるその者を、人集まり、刀物を手々に持って続ぎ節を離ち、実取り侯ヘき。身の内にても取り分け、頭 能き味わいありと相見えて、頸をこなたかなたへ奪い取り、逃げ侯ヘき。兎に角に、命ほど強面のもの無し。
然れども、義によって命を失う習い大切なり。城中より降参の申し様、
「 吉川式部少輔・森下道祐・日本介、3大将の頸を取り進むべくの侯間、残党 助け出だされ侯様に 」と、詫言申し侯間、この旨、信長公へ伺い申さるるところ、御別義無きの間、すなわち、
羽柴筑前守秀吉
同心の旨、城中へ返事侯のところ、時日移さず、腹を切らせ、3大将の頸、持ち来なり侯。
10月25日、取鳥籠城の者 助け出ださる。余りに不便に存知せられ、食物与えられ候へば、食にゑい、過半、頓死侯。誠に餓鬼の如く痩衰えて、なかなか哀れなる有様なり。
取鳥相果て、城中 普請・掃除 申し付け、城代に
宮部善祥坊
入れおき訖んぬ。