天生の麗質、自ら棄て難く
一朝選ばれて、君王の側に在り 眸を迴らして一たび笑すれば百媚生じ 六宮の粉黛、顔色無し 第二段 春寒くして浴を賜ふ、華清の池 温泉、水滑らかにして凝脂を洗ふ 侍児扶け起こすも、嬌として力無し |
始て是れ新たに恩沢を承けし時
雲鬢・花顔・金歩揺 芙蓉の帳は暖かくして春宵を度る 春宵苦だ短くて、日高くして起く 此れ従り、君王、早朝せず |
姉妹弟兄、皆、土に列す
憐む可し、光彩、門戸に生ず 遂に、天下の父母の心をして、男を生むを重んぜず、女を生むを重んぜ令む |
漁陽の鞞鼓、地を動かして来たり
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驚破す、霓裳羽衣の曲
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九重の城闕、煙塵生じ
千乗万騎、西南に行く |
宛転たる蛾眉、馬前に死す
花の鈿、地に委ねられて、人の収むる無し |
翠翹・金雀・玉搔頭
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君王、面を掩ひて救ひ得ず
迴り看れば、血涙、相和して流る |
聖主、朝朝、暮暮の情
行宮、月を見れば、傷心の色 夜雨、鈴を聞けば、腸の断たれる声 |
第八段
帰り来たれば、池苑、皆、旧に依る 太液の芙蓉、未央の柳 芙蓉は面の如く、柳は眉の如し 此に対して如何ぞ涙の垂れざらん 春風桃李、花開く夜 秋雨梧桐、葉落つる時 西宮南苑、秋草多く 宮葉、階に満ちて、紅掃はず 梨園の弟子、白髪新たに 椒房の阿監、青娥老ゆ |
第九段
夕殿蛍びて、思ひ悄然たり 孤灯挑げ盡すも、未だ眠り成さず 遅遅たる鐘鼓、初めて長き夜 耿耿たる星河、曙けんと欲する天 鴛鴦の瓦は冷ややかにして、霜華重く 翡翠の衾は寒くして、誰とか共にせん 悠悠たる生死、別れて年を経たり 魂魄、曾て来たりて夢に入らず |
空を排し気を馭して、奔ること電の如し
天に昇り地に入りて、之を求むること遍し 上は碧落を窮め、下は黄泉 両処茫茫として、皆見へず |
金闕西廂、玉扃を叩き
転じて、小玉をして双成に報ぜしむ 聞く道く、漢家の天子の使ひと 九華帳裏、夢中に驚く 第十二段 衣を攬り、枕を推し、起ちて徘徊す 珠箔・銀屛、邐迤として開く 雲鬢半ば垂れて、新たに睡りより覚む 花冠整へず、堂を下りて来たる 風は仙袂を吹きて飄颻として挙がり 猶ほ、霓裳羽衣の舞に似たり 玉容寂寞として、涙、闌干たり 梨花一枝、春雨を帯ぶ |
第十三段
情を含み、睇を凝らして君王に謝す 一たび別れしより、音容、両つながら渺茫たり 昭陽殿裏、恩愛絶え 蓬萊宮中、日月長し 頭を迴らして下に人寰を望む処 長安を見ずして塵霧を見る 唯だ、旧物を将て深情を表さん 鈿合・金釵、寄せ将ち去らしむ 釵は一股を留め、合は一扇 釵は黄金を擘き、合は鈿を分かつ 但だ、心をして金鈿の堅きに似せ令むれば 天上人間、会ず相ひ見えんと |
第十四段
別れに臨んで、殷勤に重ねて詞を寄す 詞中に誓ひ有り、両心のみ知る 七月七日、長生殿 夜半人無く、私語の時 天に在りては、願はくは比翼の鳥と作り 地に在りては、願はくは連理の枝と為らんと 天は長く地は久しきも、時有りて盡きん 此の恨み綿綿として、盡くる期無からん |