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「 長恨歌 」 と絵画: 狩野山雪 「長恨歌画巻」


白居易「 長恨歌 」の全編絵巻である、狩野山雪『 長恨歌画巻 』( チェスター・ビーティー・ライブラリ 蔵 )の各シーンを掲載。



第一段
漢皇、色を重んじて、傾国を思ふ
御宇多年、求むれども得ず
楊家に女ありて、初めて長成す
養われて深閨に在り、人、未だ識らず

天生の麗質、自ら棄て難く
一朝選ばれて、君王の側に在り
眸を迴らして一たび笑すれば百媚生じ
六宮の粉黛、顔色無し
第二段
春寒くして浴を賜ふ、華清の池
温泉、水滑らかにして凝脂を洗ふ
侍児扶け起こすも、嬌として力無し

始て是れ新たに恩沢を承けし時
雲鬢・花顔・金歩揺
芙蓉の帳は暖かくして春宵を度る
春宵苦だ短くて、日高くして起く
此れ従り、君王、早朝せず

第三段
歓を承け、宴に侍して、閑暇無く
春は春の遊びに従ひ、夜は夜を専らにす
後宮の佳麗、三千人
三千の寵愛、一身に在り
金屋粧ひ成りて、嬌として夜に侍し
玉楼、宴罷みて、酔ひて春に和す

姉妹弟兄、皆、土に列す
憐む可し、光彩、門戸に生ず
遂に、天下の父母の心をして、男を生むを重んぜず、女を生むを重んぜ令む

第四段
驪宮高き処、青雲に入る
仙楽、風に飄りて処処に聞こゆ
緩歌慢舞、糸竹を凝らし
盡日、君王、看れども足りず

漁陽の鞞鼓、地を動かして来たり

驚破す、霓裳羽衣の曲

九重の城闕、煙塵生じ
千乗万騎、西南に行く

第五段
翠華、揺揺として、行きて復た止まる
西のかた都門を出でて百余里
六軍発せず、奈何ともする無く

宛転たる蛾眉、馬前に死す
花の鈿、地に委ねられて、人の収むる無し

翠翹・金雀・玉搔頭

君王、面を掩ひて救ひ得ず
迴り看れば、血涙、相和して流る

第六段
黄埃散漫として、風、蕭索たり
雲桟、縈紆にして、剣閣に登る
峨眉山下、人の行くこと少なく
旌旗光無く、日色薄し
蜀江は水、碧にして、蜀山は青し

聖主、朝朝、暮暮の情
行宮、月を見れば、傷心の色
夜雨、鈴を聞けば、腸の断たれる声

第七段
天めぐり日転じて、龍馭を迴めぐらし
ここに到りて躊躇して去る能はず
馬嵬坡の下、泥土の中
玉顔を見ず、空しく死せる処
君臣、相顧みて、盡く衣をうるほす
東のかた都門を望みて、馬に信せて帰る

第八段
帰り来たれば、池苑、皆、旧に依る
太液の芙蓉、未央の柳
芙蓉は面の如く、柳は眉の如し
此に対して如何ぞ涙の垂れざらん
春風桃李、花開く夜
秋雨梧桐、葉落つる時
西宮南苑、秋草多く
宮葉、階に満ちて、紅掃はず
梨園の弟子、白髪新たに
椒房の阿監、青娥老ゆ

第九段
夕殿蛍びて、思ひ悄然たり
孤灯挑げ盡すも、未だ眠り成さず
遅遅たる鐘鼓、初めて長き夜
耿耿たる星河、曙けんと欲する天
鴛鴦の瓦は冷ややかにして、霜華重く
翡翠の衾は寒くして、誰とか共にせん
悠悠たる生死、別れて年を経たり
魂魄、曾て来たりて夢に入らず

第十段
臨邛の道士、鴻都の客
能く精誠を以て魂魄を致す
君王、展転の思ひに感ずるが為に
遂に、方士をして殷勤に覓めしむ

空を排し気を馭して、奔ること電の如し
天に昇り地に入りて、之を求むること遍し
上は碧落を窮め、下は黄泉
両処茫茫として、皆見へず

第十一段
忽ち聞く、海上に仙山有りと
山は虚無縹緲の間に在り
楼閣、玲瓏として、五雲起こり
其の中に綽約として、仙子多し
中に一人有り、字は太真
雪の膚、花の貌、参差として是なり

金闕西廂、玉扃を叩き
転じて、小玉をして双成に報ぜしむ
聞く道く、漢家の天子の使ひと
九華帳裏、夢中に驚く
第十二段
衣を攬り、枕を推し、起ちて徘徊す
珠箔・銀屛、邐迤として開く
雲鬢半ば垂れて、新たに睡りより覚む
花冠整へず、堂を下りて来たる
風は仙袂を吹きて飄颻として挙がり
猶ほ、霓裳羽衣の舞に似たり
玉容寂寞として、涙、闌干たり
梨花一枝、春雨を帯ぶ

第十三段
情を含み、睇を凝らして君王に謝す
一たび別れしより、音容、両つながら渺茫たり
昭陽殿裏、恩愛絶え
蓬萊宮中、日月長し
頭を迴らして下に人寰を望む処
長安を見ずして塵霧を見る
唯だ、旧物を将て深情を表さん
鈿合・金釵、寄せ将ち去らしむ
釵は一股を留め、合は一扇
釵は黄金を擘き、合は鈿を分かつ
但だ、心をして金鈿の堅きに似せ令むれば
天上人間、会ず相ひ見えんと

第十四段
別れに臨んで、殷勤に重ねて詞を寄す
詞中に誓ひ有り、両心のみ知る
七月七日、長生殿
夜半人無く、私語の時
天に在りては、願はくは比翼の鳥と作り
地に在りては、願はくは連理の枝と為らんと
天は長く地は久しきも、時有りて盡きん
此の恨み綿綿として、盡くる期無からん