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訳文:
にわかに聞いたところによると、海上に仙山という所があるとのこと。その山は何物も存在しない、縹緲たる(ぼんやりとした)所にあって、 楼閣は玲瓏として(玉のように透き通っていて)、五色の雲がたなびいております。 その中に綽約とした(美しい)仙女がたくさん在り、 そのうちの一人に、太真という字の仙女が居て、 雪のような膚、花のような容貌、それは参差(間違いなく)楊貴妃だというのです。 かの方士は金闕(金殿)の西廂(西の建物)を訪れて、玉扃(宝玉で飾られた扉)を叩きました。 小玉、双成に取り次いで、自分が来たことを伝えてもらいます。 「漢の天子の使いである」と聞いて、 九華帳(華麗な刺繍の帳)の中で寝ていた楊貴妃は、驚いて目を覚ましました。
読み下し文:
忽ち聞く、海上に仙山有りと山は虚無縹緲の間に在り 楼閣、玲瓏として、五雲起こり 其の中に綽約として、仙子多し 中に一人有り、字は太真 雪の膚、花の貌、参差として是なり 金闕西廂、玉扃を叩き 転じて、小玉をして双成に報ぜしむ 聞く道く、漢家の天子の使ひと 九華帳裏、夢中に驚く |
※ 吉川霊華『 羽衣翔飜 』
1923 (T12) |